アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「そうだったな。ありがとう。助かった」
「まだ片付けが終わっていないんです。良ければ、また手伝わせて下さい」
「そうだな。近々、この基地も出て行かねばならないし、この部屋も引き払わなければならん。片付けは必要なんだ」

 すると、アリーシャは悲しげに目を伏せたのだった。

「そうでしたね……。ラナンキュラス様は、王都に戻られるんですよね……」

 胸の前で手を握るアリーシャの顔は、どこか不安そうにも見えた。

「アリーシャ……」
「私、部屋に戻ります。汗を掻いてしまったので、身体を拭きたいんです」

 オルキデアが口を開く前に、アリーシャが申し出た。

「わかった。部屋まで案内させよう」

 アリーシャに付き添わせていた部下の一人に、病室まで連れて行くように頼む。
 念の為、昨夜とは違う部屋を用意していた。引き続き、信頼出来る者に部屋の見張りを指示し、近くには医師も控えさせていた。
 ここなら、アリーシャも安心して療養出来るだろう。

「それでは、失礼します」

 そうと言って、アリーシャは部下に連れられて、執務室を後にしたのだった。

「ラナンキュラス少将、よろしいですか?」

 二人が出て行くと、すぐに部屋に残った部下が声を掛けてくる。

「どうした?」
「彼女ーーアリーシャ嬢について、少し報告したいことがあります」

 部下の言葉に、オルキデアは身を引き締める。

「何があった?」
「書類の束をご覧頂けますか?」

 部下に言われて、オルキデアは壁際にまとめられた書類の束を眺める。

「これが、どうかしたのか?」
「これらを用途や内容で仕分けして束ねたのは、全てアリーシャ嬢です」
「これら全てか……?」
「はい。捨てていいのかは、私共に聞いてきましたが」

 部下たちが教えたのかと思っていたが、どうやら、アリーシャ自らが仕分けたらしい。
 ちなみに、部下たちの判断でオルキデアの確認が必要だと思った書類は、机の上に置いてくれたそうだ。

 部下は束の中から、ひと束を手に取った。
 軍事施設の襲撃前に行われた会議で使用した書類をまとめたものだった。

「それが、どうかしたのか?」
「少将からの報告だと、アリーシャ嬢はペルフェクト語がわからないとのことでした」
「そうだな。それで、シュタルクヘルト語が分かるお前たちに、彼女の監視を任せたつもりだったが」

 最初にアリーシャが目覚めた時、ペルフェクト語で話しかけたら反応がなかった。
 シュタルクヘルト語には反応したので、ずっとペルフェクト語がわからないと思っていたのだが。

「今回、 仕分けしてもらった書類は、全てペルフェクト語でした。この書類も」
「書類?」

 部下が持っている束と、重ねられている束を見比べていると、オルキデアはあることに思い至って、濃い紫色の瞳を大きく見開く。

「まさか……ペルフェクト語がわかるのか!? アリーシャは!?」

 部下は大きく頷くと、持っていた束を元の場所に戻す。

「読めるだけではありません。監視をしていた私ともう一人の会話も、わかっているようでした。
 掃除している振りをして、私たちのペルフェクト語の会話をじっと聞いているようで」

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