アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 思い返せば、最初に見張りをしていた者も、アリーシャに薬を盛った兵も、ペルフェクト語を話していた。

 最初に見張りをしていた兵に確認したところ、アリーシャの食事を運んできた兵ーー昨晩とは別の兵だった。と、今後のアリーシャの扱いや、シュタルクヘルトの新聞の内容について、ペルフェクト語で会話をしたらしいーーペルフェクト語なら、アリーシャは分からないと思って。

 それなのに、アリーシャは「見張りの者が、誰かと話していた」と言っていた。
 アリーシャは、どこでその話を聞いたのだろう。
 部屋からは監視の目があり、許可がなければ出れないはずだった。

「隠しているのかもしれんな」

 アリーシャは、わざとペルフェクト語が分からない振りをしているのかもしれない。
 理由は本人に聞いてみないと、何もわからないが。

「どうしますか? 尋問しますか?」
「いや。俺に考えがある。……鎌をかけてみるとするか」

 そうして、オルキデアは、とある計画を部下に打ち明けたのだったーー。

 次の日、アリーシャからの希望もあって、引き続き、執務室の掃除をお願いしていた。
 まだ、やり残していた掃除がある、と朝から見張りの兵に懇願して、使いの者がオルキデアの元にやってきた。

 オルキデアとしても、楽して執務室が綺麗になるのと、本当にペルフェクト語がわかるのか確認したかったので、アリーシャからの申し出は丁度良かった。
 オルキデアは二つ返事で了承すると、昨日と同様に、見張りを二人つけることを条件に、アリーシャを連れて来てもらったのだった。

「ラナンキュラス様」

 心配ごとが無くなったからか、アリーシャの顔色は、これまでで一番良く、健康的であった。

「来たか」
「はい、来ました! まだ途中だったので」

 いつになく元気な様子を見せるアリーシャに、つい口元が緩んでしまう。

「それじゃあ、また机の上以外をお願い出来るか。必要な道具があれば、部下に言ってくれ。俺は仕事があるから、席を外す」

 アリーシャを連れて来てくれた部下たちーー昨日とは違う兵たち。に任せると、オルキデアは席を外す。
 アリーシャについて、やらなければならないことがあった。

 昼頃、仕事が落ち着いたオルキデアは、執務室に戻ることにした。
 通路を歩いていると、アリーシャを任せている部下の一人が空になった酒瓶を抱えて、ゴミ集積場へと運んでいた。

「ラナンキュラス少将」
「そのままでいい」

 オルキデアに気づいた部下は、酒瓶を床に置いて敬礼しようとするが、それをやんわりと止めて、声をひそめた。

「アリーシャはどうしている?」
「片付けを続けています。
 もう一人に監視を任せたので、自分は部屋からゴミを運んでいました」
「そうか。それなら、用を頼まれてくれないか。今すぐではなく、俺が合図してからだが」
「はっ!」

 それから、オルキデアは昨日、作戦を打ち明けた部下を呼び出すと、「ある物」を持って執務室に来るように頼んだのだった。

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