アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「オルキデア様たちが出掛けている間、セシリアさんと夕食の買い出しに行って、戻って来てから夕食の下拵えをしつつ、裁縫を教わりました」
「有意義な時間を過ごせたんだな」
「今度は編み物を教わるつもりです。冬の間に、何か作ってみたいんです」
楽しげな笑みを浮かべるアリーシャに、「それは楽しみだ」と微笑を浮かべる。
「当然、俺にも作ってくれるだろう?」
「勿論です! 上達したら作りますね」
「それはいつなんだ?」
「い、いつかは……」
そうしている間に、二人は屋敷に戻って来る。
オルキデアがポケットから取り出した屋敷の鍵を開けようとすると、アリーシャがその手を止めたのだった。
「私が開けてもいいですか?」
「それは構わないが……」
紫色のリボンが結ばれた鍵を取り出すと、アリーシャは扉を開けて、中に入って行く。
その後に続こうとすると、「オルキデア様」と先に入ったアリーシャに名前を呼ばれた。
顔を上げると、玄関口には、主人の帰りを出迎える新妻の姿があったのだった。
「お帰りなさい」
そうして、また笑みを浮かべたところから、この台詞を言う為だけに先に入りたがったのだと気づく。
虚をつかれたオルキデアだったが、すぐに微笑を浮かべたのだった。
「ただいま」
アリーシャは花が咲くような笑みを浮かべたのだった。
自宅に戻り、互いに自室に戻ったオルキデアだったが、寝るにはまだ時間があったので、なんとなく庭に出てみた。
実はオルキデアが庭に出たのは、アリーシャの為に即席のテラス席を用意した時だけであり、それ以外はメイソンやセシリア辺りに任せたままであった。
昼間の天気の良い日に、アリーシャが散歩している事から、可憐な花が咲き誇る手入れの行き届いた庭だろうとは想像していた。
今晩、月に照らされた庭に出ると、それが想像以上だった事を知るのだった。
「綺麗だ」
瑞々しい花々、花に興味が無いオルキデアでも、それがよく手入れをした結果として美しく咲いているのだとわかる。
花壇の前に膝をついて花を眺めていたオルキデアだったが、そっと首を振る。
ーーいや、違う。
これまでも花は美しく咲いていた。
ただ単に、自分が花に興味が無かっただけだ。
アリーシャと出会ってからは、世界は変わったように輝いて見える。
花鳥風月の美しさ、人々の優しさに気付き、日々が彩りに満ちていた。
ーー知らなかった。何も知らなかった。
急便を受けて、入学したばかりの士官学校から駆けつけた春の日。
借金取りが屋敷を差押えに来てから、オルキデアの中で何かが狂い始めた。
狂ったまま軍人になり、父を失ってからはますますおかしくなった。
北部で死にかけた時、クシャースラやセシリアを始めする周りに支えてもらったことで、一部は直ったものの、その際に溢れずに残ったものが、ずっとオルキデアの中に残っていたように思う。
それがアリーシャと知り合い、彼女を通じて外に流れ出たことで、ようやくオルキデアの身は軽くなり、周囲を見る余裕さえ持てるようになったのだろう。
「アリーシャ……」
「はい?」
聞こえるはずのない返事が聞こえてきて、傍らを振り向くと、そこには化粧を落として、寝間着の上にショールを羽織ったアリーシャが首を傾げていたのだった。
「有意義な時間を過ごせたんだな」
「今度は編み物を教わるつもりです。冬の間に、何か作ってみたいんです」
楽しげな笑みを浮かべるアリーシャに、「それは楽しみだ」と微笑を浮かべる。
「当然、俺にも作ってくれるだろう?」
「勿論です! 上達したら作りますね」
「それはいつなんだ?」
「い、いつかは……」
そうしている間に、二人は屋敷に戻って来る。
オルキデアがポケットから取り出した屋敷の鍵を開けようとすると、アリーシャがその手を止めたのだった。
「私が開けてもいいですか?」
「それは構わないが……」
紫色のリボンが結ばれた鍵を取り出すと、アリーシャは扉を開けて、中に入って行く。
その後に続こうとすると、「オルキデア様」と先に入ったアリーシャに名前を呼ばれた。
顔を上げると、玄関口には、主人の帰りを出迎える新妻の姿があったのだった。
「お帰りなさい」
そうして、また笑みを浮かべたところから、この台詞を言う為だけに先に入りたがったのだと気づく。
虚をつかれたオルキデアだったが、すぐに微笑を浮かべたのだった。
「ただいま」
アリーシャは花が咲くような笑みを浮かべたのだった。
自宅に戻り、互いに自室に戻ったオルキデアだったが、寝るにはまだ時間があったので、なんとなく庭に出てみた。
実はオルキデアが庭に出たのは、アリーシャの為に即席のテラス席を用意した時だけであり、それ以外はメイソンやセシリア辺りに任せたままであった。
昼間の天気の良い日に、アリーシャが散歩している事から、可憐な花が咲き誇る手入れの行き届いた庭だろうとは想像していた。
今晩、月に照らされた庭に出ると、それが想像以上だった事を知るのだった。
「綺麗だ」
瑞々しい花々、花に興味が無いオルキデアでも、それがよく手入れをした結果として美しく咲いているのだとわかる。
花壇の前に膝をついて花を眺めていたオルキデアだったが、そっと首を振る。
ーーいや、違う。
これまでも花は美しく咲いていた。
ただ単に、自分が花に興味が無かっただけだ。
アリーシャと出会ってからは、世界は変わったように輝いて見える。
花鳥風月の美しさ、人々の優しさに気付き、日々が彩りに満ちていた。
ーー知らなかった。何も知らなかった。
急便を受けて、入学したばかりの士官学校から駆けつけた春の日。
借金取りが屋敷を差押えに来てから、オルキデアの中で何かが狂い始めた。
狂ったまま軍人になり、父を失ってからはますますおかしくなった。
北部で死にかけた時、クシャースラやセシリアを始めする周りに支えてもらったことで、一部は直ったものの、その際に溢れずに残ったものが、ずっとオルキデアの中に残っていたように思う。
それがアリーシャと知り合い、彼女を通じて外に流れ出たことで、ようやくオルキデアの身は軽くなり、周囲を見る余裕さえ持てるようになったのだろう。
「アリーシャ……」
「はい?」
聞こえるはずのない返事が聞こえてきて、傍らを振り向くと、そこには化粧を落として、寝間着の上にショールを羽織ったアリーシャが首を傾げていたのだった。