アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 そうしている内に、次第に酒量は増えていった。
 数週間滞在しただけの国境沿いの基地でも、大量の酒瓶が出たのだから、ここでの酒瓶の数はその比ではないだろう。
 部下たちは呆れて、なかなか掃除を手伝ってくれないので、クシャースラが来ない日は少しずつ自分で片付けるしかなかった。

 それも面倒になって、部下とクシャースラしか執務室に来ないのをいい事に片付けないでいたら、今や足の踏み場もなくなりつつあった。
 その原因を作っているのも、今や大量の酒瓶だけではなく、適当に重ねられた古い書類や、新しい戦術を考えるのに使って、そのまま出したままになった本まである。
 それもあって、片付けが一日で終わらなくなった以上、多忙なクシャースラはまとまった休暇の時にしか、片付けに来てくれなくなった。

「昔から片付けは苦手でな。ここの部屋も片付けてくれると助かる。……頼めるか?」
 オルキデアから話を聞いたアリーシャは、ぽかんとしていたが、やがて「わかりました」と答えたのだった。

「私でよければ片付けます。でも、意外です。オルキデア様は何でも出来る方だと思っていました」
「俺だって人間だ。出来ない事の方が多い」

 二人が話していると、執務室と続き部屋である仮眠室の扉が開いた。
 仮眠室から出てきたのは、アルフェラッツの部下である新兵であった。

「一応、部屋の換気をして、ベッドを使えるようにしました。真新しいシーツや掛布がありましたので、そちらを使用させて頂きました」
「ありがとうございます」

 一礼するアリーシャを見ていた新兵は、次いでオルキデアの姿に気がつくと目を剥いて、「失礼しました!」と敬礼をした。

「片付けてくれたのか。助かる。……アリーシャ、今日から君は仮眠室を使ってくれ」
「でも、オ……ラナンキュラス様は……?」
「俺は執務室のソファーを使うさ。物を退かせば寝れるだろう。多分」

 ソファーの上にも周りにも、積み重なった本や書類や酒瓶があった。それらに押されて、ソファーの端には昼寝の際に使用していた、ぐちゃぐちゃになった毛布もあったから、丁度いいだろう。
 毛布が足りなければ、後ほど、部下に届けさせればいい。

 それらを一目見たアリーシャは顔を引きつらせると、両手を握りしめて、オルキデアに向き直る。

「すぐに片付けますね!」
「いや、今日は片付けなくていい。さすがに今から片付けると、明日の朝になる」

 とりあえず、明日以降に片付けをお願いするとして、まずはアリーシャを仮眠室に向かわせて、不足している物が無いか、新兵と共に確認をさせる事にしたのだった。

「さて、まずはアイツに連絡をするか」

 アリーシャを手元に置いていても、他から問い詰められるのも、正体がバレてしまうのも時間の問題である。
 そうなった時の被害を最小限で食い止める為にも、協力者が必要だった。

 ーーこんな時に頼りになるのは、アイツしかいない。

 執務机に着くと、オルキデアは電子メールを立ち上げたのだったーー。
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