アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「そうだな。で、肝心の頼みというのは? まさか、アリーシャ嬢の贈り物と情報だけじゃないだろう?」
「ああ。近いうちにアリーシャを釈放しようと思う。……利用価値に気づかれる前に」

 アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトの顔が大々的に新聞に載ったのなら、ここの部屋にいる娘がアリーシャだと勘付かれるのも、時間の問題だろう。
 アリーシャがやってくる直前まで、オルキデアは軍事基地と軍事医療施設の襲撃に参加していた。
 襲撃から戻って来たオルキデアが、そこで保護した娘を独房に入れずに、手元に置き続けている事を結びつければ、想像するのはそう難しくはない。

「新聞に載ってしまったのなら急を要する。……本当なら、記憶が戻ってから釈放したかったんだがな」

 アリーシャがどこまで記憶を取り戻したのかはわからない。
 けれども、医師の診察の通りに、時間と共に記憶が戻ってくるのなら、オルキデアの傍じゃなくてもいいはずだ。
 もしかしたら、ペルフェクト(こっち)よりも、シュタルクヘルト(あっち)の方が、記憶を取り戻すのにいいかもしれない。

「釈放か……。それなら、人目を避けて、ここから連れて行くんだろう。協力するよ」
「助かる。その際に、セシリアの協力も得られないだろうか? 確か、セシリアもシュタルクヘルト語が多少話せたと思ったが……」
「セシリアも?」
「ああ。作戦はこうだ」

 アリーシャを釈放をするのは、軍部に人が少ない日を狙う。
 人目を避けて、アリーシャを車に乗せる。そのまま、何度か車を変えて、ハルモニア付近に連れて行く。
 あとは、金を渡して、ハルモニアからシュタルクヘルトにアリーシャを送ってもらうという作戦だった。

 執務室から車までアリーシャを連れ出すのと、途中で乗り換える車の手配、ハルモニア側の協力者探しには、オルキデアだけでは手に余るだろう。
 信頼の置ける者で、ある程度、人脈を持っている人物の協力が必須だった。
 それに打ってつけなのが、オルキデアの親友であった。

 オルキデアから話を聞いたクシャースラは、「なるほどな」と納得したようだった。

「それなら、おれからセシリアに頼んでみる」
「すまんな。色々頼んで。お礼に今度一杯奢るよ」
「ああ」

 オルキデアが頷いたタイミングで、部屋の扉が開いたのだった。

「お待たせしました。コーヒーをお持ちしました」

 トレーを持ってシュタルクヘルト語で話しながら入って来たのは、アリーシャであった。

「ありがとうございます。アリーシャ嬢」

 アリーシャからクシャースラがトレーを預かっている間、オルキデアは廊下に出て、アリーシャに付き添ってくれた新兵をこっそり呼ぶ。

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