アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 軍事医療施設跡に着くと、オルキデアは顔を顰めた。
 あちこちが崩れ、崩壊した建物と、その建物から運び出される無数の死体。
 ここまで悲惨な現場に立ち会ったのは、久しぶりであった。

「ラナンキュラス少将!」

 オルキデアが振り向くと、そこには医療施設跡の探索部隊長を任せていた直属の部下が、瓦礫を掻き分けてやってくるところだった。

「アルフェラッツか」

 オルキデアの直属の部下であるアルフェラッツは、踵を揃えると敬礼した。

「報告が無いから様子を見に来た。しかし、これは酷いな」
「申し訳ございません。しかし、少将がお見えになるとは……」
「気にするな。それより、何があった」
「ご覧の通りです。あまりの惨状に、新兵は使い物にならず、他の兵では人手が足りない有り様でして」

 言われてみれば、瓦礫を掻き分けているのも、死体を運んでいるのも、全てが軍歴の長い者たちであった。
 新兵は、とアルフェラッツに尋ねると、物陰で具合が悪そうにしている者や、えずいている者たちがいたのだった。

「では、軍事施設跡の探索部隊が終わり次第、こちらに向かわせよう」
「ありがとうございます」
「いや。ここまで酷いとは、俺も思わなかった。ところで、生存者はいたか?」

 アルフェラッツは首を振った。

「今のところは。見つかるのも、治療中だったと思しきシュタルクヘルトの兵と、軍事医療施設の関係者の死体のみです」
「そうか……。やはり、軍の攻撃を予想して、移送されたか」

 オルキデアが簡単に軍事施設側の探索部隊から報告された内容をアルフェラッツに伝えていると、捜索部隊の兵の一人が声を掛けてくる。

「お話し中、申し訳ありません。ラナンキュラス少将、アルフェラッツ中佐」
「どうした?」

 アルフェラッツが尋ねると、「それが……」と、報告してきた兵は言いづらそうに話し出す。

「生存者が見つかりました」
「何!?」
「ですが、シュタルクヘルトの人間でして……。それも女性です」

 オルキデアの眉間に皺が寄る。
 シュタルクヘルトでは、女性も軍に入隊できると聞いていたからであった。

「女性兵か?」
「軍服は着ていますが、どうも軍人らしく無いようで……」
「軍人らしくない?」

 オルキデアは部下と顔を見合わせる。一体どういうことだろうか。
 二人の視線を受けた捜索部隊の兵は、深く頷いた。

「はい。ただ、見つかった辺りには、医療施設のスタッフと思しき者達の死体が多くありまして。その関係者ではないかと推察されます」

 これには、アルフェラッツも眉を顰めたのだった。

「では、医療施設の関係者か……」
「助けますか?」

 アルフェラッツから視線を向けられたオルキデアは、大きく頷く。

「軍人で無くとも、何か知っているかもしれん。うちで保護して、情報を聞き出してくれ」
「承知しました。では、伝えます」

 捜索部隊が駆けて行くと、オルキデアは傍らのアルフェラッツを振り返る。

「私は様子を見に行きます」
「俺も行こう」
「少将にご足労をおかけするわけには……」
「ここまで来たら一緒だろう。それに、俺も気になるんだ。今のところ、唯一の生存者だからな」

 そうして、二人は探索部隊の後を追いかけたのだった。

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