アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
 オルキデアが仕事の合間にアリーシャの移送日について調べたところ、丁度、四日後に軍部で大きな演習を行うらしい。
 王都駐在の兵士の士気や能力の維持、部隊での結束を図る為に、定期的に行っている演習であり、持ち回り制で軍部の三分のニ以上の部隊と兵が、参加を命じられているのだった。

 残りの三分の一は軍部に残って、通常の仕事を行う。
 その中には、今回演習に参加をしない、オルキデアの部隊も入っていたのだった。
 ただ、オルキデアは先日までの軍事施設の襲撃に参加していた分の休暇を取るように、上官であるプロキオン中将より指示されていたのだった。
 またその時の休暇だけではなく、それより以前の休暇返上で働いていた分も、振り替えで休暇を取るように命じられていた。
 それを利用して、この機会に休暇を取ろうと考えていたのだった。

「それは名案だな。その日はおれも休暇を取るように命じられていたから、心置きなく手伝おう」
 クシャースラもオルキデアが軍事施設の襲撃に参加する直前より、仕事でしばらく王都を不在にしていた。
 その分の休暇を取るようにクシャースラも命じられており、せっかくならとオルキデアと休暇を合わせるつもりだったらしい。

「ああ。それは助かる。で、その日はセシリアの予定は空いているか?」
「本人に確認しないとわからないが、おそらくは空いていると思う。今日中に確認して、メールで送ろう」

 クシャースラと結婚するまで、セシリアは実家の為に、高等学校を卒業してから休みなくずっと働いていた。
 セシリアの実家であるコーンウォール家には曽祖父の代に事業で失敗した際の借金が残っており、セシリアの歳の離れた弟たちの養育費も払わなくてはならなかった。

 そんなセシリアには、クシャースラと結婚する余裕さえ、最初の頃は無かったそうだ。
 けれども、最終的にはクシャースラの熱意に負けて、セシリアは結婚した。
 借金も、クシャースラが功績を挙げ続けて貯まっていた多額の戦勝金を結納金としてコーンウォール家に渡す事で、返済を完遂したのだった。

 結婚後は家庭に入ってからは、以前ほどに忙しく無くなったと聞いていた。
 それどころか、自分の時間が増えて、悠々と過ごしているようだった。

 二人の間にまだ子供はいないが、これは内的要因、外的要因がある訳ではない。
 女性に関しては初心なクシャースラが、なかなかセシリアに手を出さないのが原因だろう。
 士官学校にはトップの成績で入学して総代として宣誓を誓い、卒業時にもトップの成績をおさめて、再び総代を務め、軍人として若くしてオルキデアと同じ将官の階級になる程に優秀な親友。
 けれども、女性に関してはてんで奥手で駄目な男。
 それがクシャースラという、オルキデアの唯一無二の親友であった。

「ああ。そうしてくれ。それで、移送の方法だが……」
 オルキデアが説明すると、クシャースラからいくつか質問が上がった。
 それに答えつつ、アリーシャの移送作戦について段取りを決めていると、やがて外は暗くなり、夜になったのだった。

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