アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ
「その代わりと言いますか、妻も、妻の両親も、貴女に会いたがっていました。
 特に妻はアリーシャ嬢と同年代なので、きっと良き友人になれると思います」

 言われてみれば、セシリアは今年で二十三になる筈だ。
 アリーシャの年齢は聞いていなかったが、おそらくセシリアと同じくらいだろう。

「その妻の両親は、産まれた頃から世話を焼いてきたオーキッド坊ちゃんの結婚相手に興味があるそうです。
 アリーシャ嬢さえ良ければ、会ってやって下さい」

 聞き捨てならない言葉に、オルキデアは口を挟む。

「おい! その『産まれた頃から世話を焼いてきたオーキッド坊ちゃん』って、まさか俺のことじゃないよな?」
「まさに、お前さんのことだよ。オーキッド坊ちゃん……いや、オルキデア」
「全く……」

 面白そうに話すクシャースラに、オルキデアは掌で額を押さえて溜め息を吐いたのだった。

 セシリアの母親のマルテは、結婚するまではラナンキュラス家で働くメイドであった。
 父のエラフに会いに屋敷に訪問した後のセシリアの父親であるメイソン・コーンウォールに惚れられ、度重なる求婚の末に結婚した。
 結婚する際に、マルテはメイドを辞めてしまったが、エラフとメイソンが良好な関係だからか、近所に住んでいるからか、オルキデアが産まれる際やエラフの葬儀の際には手伝いに来てくれたのだった。

 そういった縁もあり、マルテとメイソンの娘であるセシリアとは、子供の頃から付き合いがあった。
 セシリアの歳の離れた弟たちとは、あまり縁は無いが、彼らが幼い頃は遊び相手にもなったものだった。

 二人の様子を見ていたアリーシャは、「是非、お会いしたいです」と微笑む。

「私、学校に通っていなかったんです。だから、友人がいなくて……」
「そうなのか?」

 これにはクシャースラだけではなく、オルキデアも目を丸くした。

「はい。だから、オルキデア様とクシャースラ様を見ていると、すっごく羨ましくて……。
 いつか、同年代のお友達が欲しいと思っていたんです」

 いつもの様に微笑を浮かべるアリーシャの顔に、どこか陰りがさしていた。
 それに気づいているのかいないのか、本人は「奥様のご両親にもお会いしたいです」と続けたのだった。

「オルキデア様が産まれた頃から知ってる、という事は、私たちが知らない話も沢山知ってますよね?
 子供の頃のオルキデア様や、私と出会う前のオルキデア様を」
「……聞いても面白いものは無いと思うぞ」

 それどころか、オルキデア自身も忘れているような恥ずかしい話まで覚えていて、アリーシャに話してしまうかもしれない。
 アリーシャに会わせる前に、コーンウォール夫妻に言い含める必要があるだろう。
 二人の話しを聞きながらコーヒーを飲んでいたクシャースラは、「まあまあ」と止めたのだった。

「その話は置いておいて。それで、いつだって?」
「調べたら、丁度四日後、軍で大きな演習がある。今回の演習では、王都に駐在している部隊のうち、約三分の二以上が参加するらしいな」
「ああ。そうだな」
「その日に、アリーシャをここから移送させようと思う」

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