この世界の魔王はツンでクールな銀髪美少年だ

*


「──で? あの時あんたたちが私に説明した『ピエレオスの自然破壊や貧困格差の原因は魔族』って言うのは真っ赤な嘘で? 自分たち王族の悪政のせいだってわかってたのに? 民衆の怒りの矛先を魔王に向けさせてたってことで間違いないのよねそこのボンクラ王子?」

 魔王の座る玉座の横に立ち、さっきまで自分がいた位置に這いつくばる王子とかつての仲間を見下ろす。

 金髪で典型的王族スタイルなこの国の第一王子。
 正直、一緒に旅をする中でもしかしたら愛が生まれちゃうかも。そしたら私、玉の輿じゃない? 人気の異世界ロマンスじゃない? 王子、25歳だし年齢差もちょうどよくない? 私は愛のためなら残りの人生を異世界でだって生きていくわ! ……なんて思ってた時期もあったけど、3ヶ月という期間を魔王討伐のために行動を共にしてもイマイチ人間として好きになれなかった。
 それは旅の途中で泊まった宿屋でのお店の人への横柄な態度だったり、ちょっとした言葉の使い方だったり。どこか引っかかる部分があったのだ。

「違うんだリノ……! 君は魔王(ヴァルシュ)に騙されて……!」
「うるせぇ。ゴタゴタ言わずにイエスかノーで答えろ」
「…………イエスです……」

 がっくりと項垂れるその金髪をむしって十円ハゲを作ってやりたい。

「リノ! 王子になんて無礼な口をきくのよ! それに貴女、今までとずいぶん態度が違うじゃないっ!」

 王子と同じく、私の立つ場所より数段低い位置で床に転がっていた魔術師メノウが彼を庇う。

「怒りのあまり被ってた猫が逃げってったのよ。後で探しとくから大丈夫、気にしないで。本当の私は兄の影響で口が悪いの」

 メノウ。ストレートの黒髪と褐色の肌がエキゾチックな18歳。
 若くして最高位の魔術師になった彼女は気むずかしいところもあったけれど、女同士仲良くできたらと思っていた。

「……メノウ。貴女はいつもどこか私に壁があるような気がしていたけれど、それは私に隠していることがあったからなのね? 魔術師たちは魔王を倒したら私を日本(元の世界)へ送還してくれると言っていたけれど、本当はあなたたちにそんな力ない。私を喚ぶだけで精一杯だったんだ」

「……っ!」

 真実を言い当てられたメノウが榛色の瞳を潤ませる。泣きたいのはずっと騙されていた私の方だ。

「すまなかったリノ! だが無事に魔王を倒した暁には俺たちは君の今後の王都での生活をちゃんと保障するつもりで……!」

 戦士アカギがその巨軀に相応しい重低音の声で叫ぶ。
 アカギ、あんたのことは気の良いオッサンだと思っていたわ。

「財政が火の車で傾きかけたピエレオスでの今後の生活? 魔王を倒したって何の解決にもならないのに? ……って言うかアカギ。そう言うってことはあんたもグルで、私を魔王討伐のデモンストレーションに利用してたのね」

 ピエレオスの草木が枯れるのも作物が上手く育たないのも。税が重いのも民衆の生活が楽にならないのも。全ては魔族のせいで。全ては魔王のせいで。
 この国の中枢部の連中は魔族を悪に仕立てることで民の不満を自分たちから逸らしてきた。聖女を召喚し、魔王を打ち倒すことで王族の信頼を回復しようとしていた。あわよくば魔族の土地や財宝を掠め取ろうとまで計画して。

 なんて浅はか。
 なんてくだらない。

 こんな人たちより、私に真実を教えてくれた魔王の方がよっぽど信頼できるじゃない。


「……ねぇ。そろそろ帰って欲しいんだけど、この修羅場まだ続くの? と言うかなんで人間同士の仲間割れに僕が巻き込まれてるわけ?」

 私の隣で座る少年が呆れを隠さない声でぼやく。

「悪いわね少年。でも今は一人の成人女性の、私の人生の岐路なの。今ここで選択を誤ったら私の今後が詰むの。あなたも王を名乗るなら聖女に仕立てあげられたこの哀れな女の決断を見守ってちょうだい。……って言うかこっちの都合まる無視で突然呼び寄せて魔王討伐なんて危険な仕事させるとかコレって拉致とか詐欺とか犯罪にあたるんじゃないの? あーやっぱ無理。本気で無理。コイツらと同じ国に戻って生きてくとか、無理。あと少年お腹殴ってごめんね」

 そう。日本に帰る術がないとしても、この王子(クソ野郎)たちとまた旅をしてあの国に戻ることなど、あり得ない。

「王子、メノウ、アカギ。ここでお別れよ。あんたたちはさっさっとピエレオスに帰って自力で国を建て直しなさい」

「そんなっ君はどうするんだリノ!」

「だからうるせぇって言ってんだろ。自分たちの罪悪感を軽くするために私の心配をして見せるくらいなら最初からくだらない嘘つくんじゃねぇよこのボンクラ王子ども。あ、この『聖女の杖』返すわ。オーブは取れちゃったけど傷はついてないから後はそっちでどーにかして」

「そのオーブ、人間の持ち物にしてはそこそこ価値のある石みたいだけど返しちゃって良いの? 慰謝料として貰っておいたら?」

「いらない。婚カツ頑張って、いつか本物の王子様にもっと良い宝石のついた指輪貰う」

 そう言って『婚カツ』という耳慣れない言葉に首を傾げる少年王に向き直る。


「──と言うことで少年。私をこの城で雇ってちょーだい」


 なんで僕が?! と魔族の王たる美貌の少年は、その不思議な青色の瞳を見開いた。

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