すてきな天使のいる夜に〜2nd Sstory〜
目が覚めてから2週間が経って、私は一般病棟に移された。
一般病棟といっても、私がいつも入院している部屋。
傷の痛みもだいぶ落ち着き、起き上がることができるようになった。
「だいぶ、傷の方はよくなったみたいだな。
傷口から膿んだりしてないし、綺麗になって来てるね。
痛みはない?大丈夫か?」
いつもの朝の診察の時に、大翔先生は背中に負った傷の消毒をしてくれる。
背中は、自分からは見えないけどやっぱり大翔先生から見られるのは、少し抵抗がある。
「沙奈?」
俯いていた私の顎をすくい、大翔先生と目を合わせた。
「大丈夫。」
「大丈夫じゃないだろ。
傷口、痛むか?」
大翔先生は、私のことを抱き上げいつの間にか大翔先生と向かい合う形に膝の上へ座っていた。
最初は、こういうことをされても何も抵抗や恥ずかしい気持ちはあまりなかったけど、最近は大翔先生と過ごす時間が多くなったからか、変に意識をしてしまい緊張する。
自分でも分かるくらい、顔が熱くなり心臓の鼓動がうるさいくらいに耳元に響いて聞こえてくる。
この心臓の音が、大翔先生に聞こえてしまわないか隠すことに精一杯だった。
「先生は、女の人誰でもこんな風に扱ってるんですか?」
「えっ?」
私から少しだけ体を離し、驚く表情で私を見ていた。
もし、誰にでもこんな風に優しく抱きしめている姿なんて想像したくない。
考えるだけでも、心が苦しくなる。
「先生は、女性の扱い慣れてそうだから…。
優しいし、こんなことされたらみんな勘違いしちゃいますよ。」
「ふふ。
沙奈。もしかして、俺の事意識し始めてくれてるの?」
1ミリも外すことの無い視線に、体が金縛りにあったような感覚になった。
捉えられた先生の視線から、目をそらすことが出来なくなっていた。
「違います。」
否定するつもりはなかったのに。
だけど、大翔先生の女性に対する関わり方が気になってしまう。
「沙奈は、いつも嘘つくの下手だよな。
目が泳いでる。
だけどな、俺は誰に対してもこんな風に抱きしめたりなんかしないよ。
少しでも沙奈に触れていたいと思うから俺は沙奈を抱きしめたい気持ちが抑えきれないだ。
それに、大切な人でなければこんなにも優しくて穏やかな気持ちにはならないよ。
沙奈が、もし俺の温かさを感じてくれているとしたら、それは沙奈にしか感じられないものだよ。」
偽りのない、大翔先生のまっすぐな言葉に自分の心の中が、驚くくらいに熱くなっていた。
こんなにも至近距離で見つめられ、優しい言葉をかけてくれることに慣れていないから、目を合わせることができず、思わず私は大翔先生の胸の中へ顔を埋めてしまった。
「沙奈は可愛いな。」
私の後頭部を、優しく撫でてくれる。
そんな先生を見ていると、背中にある傷のことを深刻に考えすぎなくてもいいような気がした。
「それから、沙奈…。」
「はい。」
顔を上げるなり、大翔先生は私の顎をすくい視線を合わせた。
さっきの表情とは異なり、真剣な眼差しで私のことを見ている。
「頼むから、無茶だけはしないでほしい。
救急外来から患者が運ばれてくる度に、沙奈のことを考えてしまうんだ。
沙奈と出会って、まだ数年しか経っていないのにこの短期間の間で沙奈は2回救急車で運ばれて来た。
どんな時だっていつも重症の状態で運ばれてくる。
いつも、命の瀬戸際に…
沙奈がいなくなってしまったらって考えたら怖くてたまらないんだ。
だから、お願い。
沙奈の体は、沙奈だけの体じゃないから。
俺の大切な命でもある。
約束してくれ。
必ず、1人で無理はせず俺に話してくれ。
俺が近くにいない時には、紫苑や翔太に必ず頼ってくれ。」
切ない視線を向けられながらも、いつも大翔先生の言葉は私のことを想って話してくれていることが伝わる。
誰からも必要とされず、愛されることはないと思っていた自分の命。
それでも、命懸けで母親が産んでくれたから自殺は考えないようにしていた。
1日でも早く、他者からの危害や病気、不慮の事故で命を絶てたらいいと思っていた。
でも…
紫苑や翔太と出会ってから生きる道が見つかった。
大翔先生と出会ってから、この先もずっとこの人と一緒に生きていたいと思えるようになった。
だからこそ、病気の治療にも発作にも耐えられた。
こんな風に誰かに求められ、優しくされ、愛され、こんなにも私を心配してくれる人がいる限りは簡単に死ぬことはできない。
「先生、心配してくれてありがとう。
でも、大丈夫。
生きる道も希望も見つかったから大丈夫。
だから、無理はしないよ。」
私の言葉を聞いて、半分心配な表情を浮かべながらも、優しく微笑んでくれた。
温く優しい温もりで包んでくれる私の大切な人。
私を守ってくれる人を、大切にしたいからこそ、私はもう肩の力を抜いて無理せずに生きていこうと思う。
自分を縛り付け抱えるのも、辞めようと思う。
そんなこと、誰も望んでいないと気付くことができたから。
悲しい表情や暗い表情を私も見たくないから。