恋獄の鎖
 お母様譲りの美しいプラチナブロンドとサファイアの瞳。

 大貴族の娘としての誇りと矜持からの立ち振る舞い。

 誰よりも美しく優雅に、決して芯を折ることなく堂々と立つ。

 わたくしには恐れるものなど何もないのだもの。社交界での羨望を一身に集めるに十分相応しい存在だと思うわ。

「どうぞごゆっくりして下さいませね」

「ぜひそうさせていただくわ」

 わたくしは"病み上がりに来ている"のだもの。いつまでもこんな場所にいては身体に障ってしまうわ。

 本当はもう少ししたら帰るつもりでいても、本心はおくびにも出さないのが淑女の嗜みというものよ。

 でもわたくしの心など知りもしない令嬢は嬉しそうにはにかみ、深々と一礼して他の客への挨拶へと向かった。


 必然的にわたくしの元には連日のように夜会の招待状が届く。

 でも招待されたところでその全てに顔を出すことはできない。

 出席する夜会はわたくしの気まぐれで決められて、今日の夜会もその一つ。

 けれど、時には家同士の繋がりを深める為に出席しなければいけないこともあった。


 往々にしてその手の夜会は退屈なもので、わたくしは気乗りはしないのだけれど、お父様の顔を立てなければいけない場合もあるから仕方ないわ。そうした大人の事情が分からないほど我儘な小娘ではないのだもの。


 そしてメイディア伯爵邸で開かれた夜会も、そんな取るに足りない何の面白味もない夜会――そのはず、だった。
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