恋獄の鎖
 古い友人を失ったと何食わぬ顔で葬儀に参列し、あの女の両親から射殺さんばかりにねめつけられた。

 憎んでも、憎んでも、足りない。

 その目から醜い感情をぶつけられ、自分は確かに彼女からミハエルを奪ったのだと昏い愉悦に浸りさえした。


 もう二十年以上前の話だ。

 今頃何の用かと余裕を持って対応したら良かったのに。けれどリザレットの両親にとっては、つい昨日のことのように未だ忘れ得ぬものらしい。


 わたくしはミハエルと結婚した。

 けれどリザレットとの愛情ではなく、わたくしの財力を選んだのはミハエルなの。

 ミハエルがあなたたちの可愛いリザレットを捨てたのよ。


 その事実が、空っぽにも等しいわたくしの心をわずかばかり満たした。




 ああ、それよりもティエラディアナだ。

 リザレットの息子が、わたくしやミハエルに復讐する為にティエラディアナに近づいた可能性だって十二分にある。


 親らしいことをしてやれるたった一度の機会だと思った。

 決してあの男に深入りしてはいけないと、親心からティエラディアナを諭す。

「ティーナ、結婚相手はお母様が見つけてあげるわ。容姿も性格も家柄も血筋も、お母様の可愛い娘のあなたにこそ相応しい、最高の殿方を選んであげる。だから、あんな男のことは早く忘れておしまいなさい。ねえ、わたくしの可愛いティーナ、あなたはお母様の言うことをちゃんと聞いてくれるわよね?」

「お母様……お願いよ。理由を聞かせて」

 どうしていけないのか。

 感情的になったところで、肝心な理由を何一つ打ち明けられないわたくしの語る言葉に、初めての恋を諦めさせられるほどの強い説得力があるはずもない。

 普段から良い母親として接していたのなら、説得することはできたのか。


 わたくしは女として母としても、リザレット・カルネリスに完全に敗北したのだ。

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