毒蝶
どうして僕の言うことを聞いてくれないんだ。
そんなにわがままを言うんだ。


小さい男だと思った。
これほど小さい男だとは思ってなかった。


「逞?聞いてる?」


ルナは僕の肩に触れる。


……ダメだ、考えないようにしてたことが全部出てくる。


その声でほかに誰の名前を呼んだの?
どれだけの人に甘えてきたの?
その甘え方は、誰に教えられたの?


僕の醜い気持ちは止められなかった。


「……逞?」
「うるさいな!少しは僕の言うことを聞いてよ!」


少し振り払っただけのつもりだった。


だけど僕の手は、ルナの頬に当たってしまった。


ルナは驚いた表情で僕を見る。
その頬は若干赤くなっている。


僕がやった。
あれだけ憎んでいた男と、同じことをしてしまった。


「ご、ごめん、ルナ……ちょっと頭冷やしてくる……」


僕はルナを置いて部屋を出た。


どこに行くわけでもなく、適当に歩く。


しばらくすると冷静になってきて、自分がしてしまったことを後悔していた。


どうして手を出してしまったんだろう。
ルナのわがままを聞いてあげられなかったんだろう。


こんなに、僕の中に独占欲があるなんて知らなかった。
誰かを好きになることが苦しいなんて、知らなかった。
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