蛇と桜と朱華色の恋

「――夜澄。もしや」
「裏緋寒の存在は至高神によって定められる。そして土地神である竜頭と、彼に従う俺たち桜月夜の守人だけがそれを察知できる。竜糸の表緋寒といわれる代理神の里桜が土地に仕える『逆斎』であるいま、その対になりえるのは……天空より舞い降りた至高神の末裔である『天』ではないのか?」
「天神の娘……だとすればあの雨の降らせ方にも髪色にも納得がいく」
「ま、早合点するのもどうかと思うが、可能性は高いな」

 星河がうんうん頷く横で、夜澄はふと、少女が眺めていた蕾を膨らませた桜の木を見上げる。

 ……白花の枝垂れ桜?

 竜糸に白桜は珍しい。ふと懐かしい気持ちになるが、夜澄はなぜ一本だけこの場所にあるのだろうと首を傾げ、そのまま視線を地面へ落とす。周囲を幻覚作用のある暗色の芥子の花がぐるりと被っている。それはまるで桜を閉じ込める檻のよう。不快そうに夜澄は顔を顰め、困惑まじりの呟きを零す。

「あの娘……まさか、な」

 そんなことを知る由もなく、桜の傍から離れるにつれ存在感を増す真っ青な矢車草は、星空のした、夜空に張り合うように、どこまでもどこまでも、無邪気に拡がっている。
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