本能で恋をする
「叶斗、お前は何もわかってない!!!


私は本当はお前を次期社長にしようと思っていたのに。海斗を副社長にして、お前達二人でこの会社を………妻の夏子と夢乃が夢見てた、この会社を息子達に……」

「え?」
俺と、鴨志田の声がハモった。
「母さんの夢?」

「あぁ、そうだ!
海斗も知らなかったと思うが、この会社は最初は私と妻の夏子、夏子の親友の夢乃の3人で建てた会社なんだ。
最初は夢乃と付き合っていた。でも叶斗を妊娠してすぐ、夢乃から別れを切り出された。
理由は夏子の病気だ。
夏子も私を好いてくれていて、夢乃に言われたんだ。
《私と別れて、夏子と結婚してあげて!夏子が死んだ後迎えにきてほしい。子どもと待ってる》と。
夏子は、病気で先が長くなかったから、夢乃は、夏子の短い人生に、少しの幸せを与えてあげたくて。
でも結婚した後すぐ、夏子も妊娠して……
その後3人で話し合った結果、夢乃が手を引いてくれたんだ。私は出来る限り、夢乃と叶斗の生活の援助がしたいと懇願した。でも夢乃は夏子を大切にしてほしいとだけしか言わなくて……」

横で凛音が泣いている。

「叶斗と海斗………
二人とも私がつけた名前だ。
それぞれの母親の名前から連想して。
夏子が死ぬとき、言われてたんだ。《夢乃の子どもを海斗と一緒に幸せにしてあげて》と……
だから夏子が亡くなった後、叶斗を探したが、見付からなくて……
そしたら、お前から会いに来てくれた。だから私はお前達二人に、この会社を託そうと………」

「社長…」
「親父!」

「あの、鴨志田さん!」
不意に凛音が前に出て、声をかける。

「あなたが今までどんな思いで生きてきたのか、どんな辛い思いをしたのか、私にはわかりません。
でも私は鴨志田さんにとても感謝してます。
あの時……海斗の初めての出張で寂しかった夜。あんな夜中に海斗を送ってくれましたよね?
それに、いつも会社での海斗を、支えてくれてた。
あなたは恨みがあっての行為だったかもしれませんが、私達を支えてくれたのは事実です。
あなたは本当はお母様と同じでとても優しい人です。
だからもう、こんなことやめましょう。
海斗と一緒に、この会社を支えて下さい!」

凛音の言葉が、鴨志田に響いた気がした。

「やめろ!!
どうしても、許せないんだ!」
鴨志田がナイフを取り出す。
そして俺に向かってきた。

「うわぁぁぁぁー」

「海斗!!!」
< 88 / 92 >

この作品をシェア

pagetop