冷たい海
それからの二年間は、美夏は車椅子にはなったものの友人の手も借りて普通に学校へ通い、高校にも無事に合格した。僕達家族は彼女が車椅子の生活になったからといって別段特別扱いすることもなく、普通に接した。
そして僕も、退院翌日にあったことなんて嘘のように美夏には何の変わりもなく接したし、彼女の態度にも何も変わりはなかった。彼女は年齢の割には幼な過ぎて、お互いの唇を重ねることの意味をそれほど深く意識していないのかも知れない。僕はそう思っていた。
そんな何気ない、だからこそ僕達にとってこの上なく幸せな日常が続いた。
夏休みになり、僕達の町にも『真夏日』と呼ばれる日が増えてきた。この土地は都会ほどに暑くなることはないようだが、それでも外を歩いていると、半袖でも汗が滲むほどには暑くなっていた。僕はその夏休み、晩秋にある箏の演奏会に向けての練習に励んでいた。
その年のお盆も間近になった日のことだった。
「ねぇ、涼平兄ちゃん。海蛍って、知ってる?」
つい先刻まで部屋に来ていた女友達が帰ってすぐに、彼女は僕の部屋のドアを開けて尋ねた。
「あぁ……夜に海で光るっていう」
僕は勉強机に向けていた顔を彼女に向けた。すると、彼女の瞳はまるで蛍が光っているかのように美しく輝いた。
「うん! 縞目の浜の洞窟に行ったら見れるんだって。ねぇ、涼平兄ちゃん。今晩、見に行こうよ!」
「えっ、縞目の浜の洞窟? でも……」
思わず、美夏の座る車椅子に目がいった。
その洞窟には昔、彼女と何度も行った。そう……彼女がまだ走り回っていた頃に。その時と今は、もう違う。足場の悪い洞窟には、きっとこの車椅子は入れない。
そして僕も、退院翌日にあったことなんて嘘のように美夏には何の変わりもなく接したし、彼女の態度にも何も変わりはなかった。彼女は年齢の割には幼な過ぎて、お互いの唇を重ねることの意味をそれほど深く意識していないのかも知れない。僕はそう思っていた。
そんな何気ない、だからこそ僕達にとってこの上なく幸せな日常が続いた。
夏休みになり、僕達の町にも『真夏日』と呼ばれる日が増えてきた。この土地は都会ほどに暑くなることはないようだが、それでも外を歩いていると、半袖でも汗が滲むほどには暑くなっていた。僕はその夏休み、晩秋にある箏の演奏会に向けての練習に励んでいた。
その年のお盆も間近になった日のことだった。
「ねぇ、涼平兄ちゃん。海蛍って、知ってる?」
つい先刻まで部屋に来ていた女友達が帰ってすぐに、彼女は僕の部屋のドアを開けて尋ねた。
「あぁ……夜に海で光るっていう」
僕は勉強机に向けていた顔を彼女に向けた。すると、彼女の瞳はまるで蛍が光っているかのように美しく輝いた。
「うん! 縞目の浜の洞窟に行ったら見れるんだって。ねぇ、涼平兄ちゃん。今晩、見に行こうよ!」
「えっ、縞目の浜の洞窟? でも……」
思わず、美夏の座る車椅子に目がいった。
その洞窟には昔、彼女と何度も行った。そう……彼女がまだ走り回っていた頃に。その時と今は、もう違う。足場の悪い洞窟には、きっとこの車椅子は入れない。