冷たい海
だが、僕はすっと目を瞑った。
「分かった、美夏。海蛍を見に行こう」
「本当? やったぁ!」
美夏は無邪気に喜んだ。
そのキラキラと輝く笑顔が、僕の心を眩しく照らして。心地よい眩しさが僕を柔らかく包み込んで。
彼女の望みは全て叶えてやりたい。そう……彼女が足を使えないなら、この僕が彼女の足になろう。そう思った。
夕陽が沈み暗い紺色に様変わりした空に、無数の星がプラチナのように白く瞬いていた。美夏が懐中電灯で進路を照らしてくれていたのだが、その夜は星の輝きに明るく照らされていて、懐中電灯も不要かと思うほどだった。僕はその下を、美夏の車椅子を押しながら歩いていた。
そんな時間に『車椅子の』美夏と出かけるのも初めてだった。
彼女が車椅子ではない頃には、幾度となく夜に二人で線香花火をしたり星を見に出たことはあった。しかし、その晩は両親に「危ないからやめなさい」と反対された。そんな場面を切り取っても、僕達は以前とは……彼女が立って歩いていた頃とは、何処か異なるということを実感せざるを得なかった。
僕達は「少し夜風に当たってくるだけだから」と必死に両親を説得して、どうにかその星空の下に出ることができたのだった。
僕は暫し立ち止まって満天の星空を見上げた。車椅子の美夏も空を眺め、その瞳には星の放つ白い光が反射して輝いていた。
「いつぶりだろうね」
彼女の口から、ふとそんな言葉が溢れた。
「こうやってお星様を眺めることができるの」
その言葉を噛み締めるように、彼女はその瞳に星を無数に輝かせていた。
その満天の星空は僕にとっては何でもないものだった。夏になれば、いつでも見れる空。だけど、美夏にとっては特別なものになっていたのだ。そう。決して自分の意志で、自分で歩いて見に行くことができないものになってしまったのだから。
「分かった、美夏。海蛍を見に行こう」
「本当? やったぁ!」
美夏は無邪気に喜んだ。
そのキラキラと輝く笑顔が、僕の心を眩しく照らして。心地よい眩しさが僕を柔らかく包み込んで。
彼女の望みは全て叶えてやりたい。そう……彼女が足を使えないなら、この僕が彼女の足になろう。そう思った。
夕陽が沈み暗い紺色に様変わりした空に、無数の星がプラチナのように白く瞬いていた。美夏が懐中電灯で進路を照らしてくれていたのだが、その夜は星の輝きに明るく照らされていて、懐中電灯も不要かと思うほどだった。僕はその下を、美夏の車椅子を押しながら歩いていた。
そんな時間に『車椅子の』美夏と出かけるのも初めてだった。
彼女が車椅子ではない頃には、幾度となく夜に二人で線香花火をしたり星を見に出たことはあった。しかし、その晩は両親に「危ないからやめなさい」と反対された。そんな場面を切り取っても、僕達は以前とは……彼女が立って歩いていた頃とは、何処か異なるということを実感せざるを得なかった。
僕達は「少し夜風に当たってくるだけだから」と必死に両親を説得して、どうにかその星空の下に出ることができたのだった。
僕は暫し立ち止まって満天の星空を見上げた。車椅子の美夏も空を眺め、その瞳には星の放つ白い光が反射して輝いていた。
「いつぶりだろうね」
彼女の口から、ふとそんな言葉が溢れた。
「こうやってお星様を眺めることができるの」
その言葉を噛み締めるように、彼女はその瞳に星を無数に輝かせていた。
その満天の星空は僕にとっては何でもないものだった。夏になれば、いつでも見れる空。だけど、美夏にとっては特別なものになっていたのだ。そう。決して自分の意志で、自分で歩いて見に行くことができないものになってしまったのだから。