冷たい海
 美夏の病気は三人に二人はさほど進行せず、それまでと変わらずに生きていける。しかし、三人に一人は悪化してしまい、最悪の場合、死に至る。そう、医師が言っていたと両親から聞かされていた。
 僕はそれを聞いて以降、その確率から目を背けていた。大きいというわけではないが、決して小さくもないその確率。でもきっと、美夏は……美夏に限って『三人に一人』のわけがない。そう、信じていたのだ。

「違う……」
 僕の口からその言葉が溢れた。
「美夏に限って……美夏だけは、『三人に一人』じゃない」
 僕はベッドの彼女をそっと抱き寄せ、ぎゅっと強く抱き締めた。
「そんなの、僕が許さない。僕が絶対に死なせないから」
 僕は離さない……美夏を絶対に。その強い想いをもって彼女を抱き締めた。熱い彼女の涙はただひたすらに僕の胸を濡らして。奥の奥まで熱くした。

「涼平兄ちゃん……苦しいよ」
 僕が抱き締める腕の中。彼女は涙で濡らした顔で微笑を作った。
「ご、ごめん」
 僕が腕を解くと彼女は哀しげな笑顔を浮かべた。
「でも……嬉しい」
 彼女のその笑顔が僕の心に突き刺さって。僕は堪らなく苦しくなった。
< 25 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop