冷たい海
「ねぇ、涼平兄ちゃん。箏……弾いて」
強く抱き締める僕の胸で、彼女は震える声で懇願した。
「涼平兄ちゃんの箏を私……ずっと、聴いていたいの」
もうすでに呼吸器官にまで浸透していた病は、彼女からその澄んだ歌声を奪っていた。だけれども、彼女は自分の聴覚が機能する限り、僕の箏奏を聴きたがった。
僕は彼女の病が治まるように……少しでも彼女の苦しみが引くように。祈りを込めて、その部屋で弦を弾いた。僕の箏奏はその部屋全体に響き渡り、僕達の見た海の風景を映し出した。
彼女はその日から、高熱を自らの内に封印する度に、まるで御褒美をねだるかのように僕の箏奏を聞きたがった。
そして、その度に……僕が弦を弾く日が来る度に季節は少しずつ晩秋への変移を遂げ、その部屋は少しずつ寒くなっていた。それに伴って、箏奏が映し出すその海は、徐々に冷たさを増したのだった。
強く抱き締める僕の胸で、彼女は震える声で懇願した。
「涼平兄ちゃんの箏を私……ずっと、聴いていたいの」
もうすでに呼吸器官にまで浸透していた病は、彼女からその澄んだ歌声を奪っていた。だけれども、彼女は自分の聴覚が機能する限り、僕の箏奏を聴きたがった。
僕は彼女の病が治まるように……少しでも彼女の苦しみが引くように。祈りを込めて、その部屋で弦を弾いた。僕の箏奏はその部屋全体に響き渡り、僕達の見た海の風景を映し出した。
彼女はその日から、高熱を自らの内に封印する度に、まるで御褒美をねだるかのように僕の箏奏を聞きたがった。
そして、その度に……僕が弦を弾く日が来る度に季節は少しずつ晩秋への変移を遂げ、その部屋は少しずつ寒くなっていた。それに伴って、箏奏が映し出すその海は、徐々に冷たさを増したのだった。