冷たい海
秋が深まって吹く風も日に日に冷たくなるにつれ、病は美夏の深い部分にまで浸透し蝕んでいった。それは彼女の体の至る部分に痛みをもたらすだけでなく様々な臓器の機能を低下させ、息をするという、生物にとっては当たり前の行為さえも奪おうとしていた。それはまるで、足を喰らいつくした悪魔が徐々に、彼女の魂を喰らっていくようで。僕は悪魔に喰われていく彼女を見るのが……いや、その忌まわしき悪魔と必死に闘う彼女に何もしてやることができないのが、辛くて堪らなかった。
しかし、それでも彼女の心は美しく澄んでいて。どれほど悪魔に蝕まれようとも心までは喰われない……そんな彼女の強い想いを遣り切れぬほどに感じて、僕は胸が締め付けられる想いがした。
その日。自らの内に忌まわしき悪魔を封印した彼女は、虚ろな瞳を僕に向けた。
「ねぇ、涼平兄ちゃん」
透き通ったその声は、壊れそうなほどにか細かった。
「私……涼平兄ちゃんの箏の演奏会、行きたい」
「えっ……」
まるで消え入りそうなその願いは、僕の心をトクンと揺らした。
しかし、それでも彼女の心は美しく澄んでいて。どれほど悪魔に蝕まれようとも心までは喰われない……そんな彼女の強い想いを遣り切れぬほどに感じて、僕は胸が締め付けられる想いがした。
その日。自らの内に忌まわしき悪魔を封印した彼女は、虚ろな瞳を僕に向けた。
「ねぇ、涼平兄ちゃん」
透き通ったその声は、壊れそうなほどにか細かった。
「私……涼平兄ちゃんの箏の演奏会、行きたい」
「えっ……」
まるで消え入りそうなその願いは、僕の心をトクンと揺らした。