王子と社長と元彼に迫られています!
戸惑う私に彼女は満足そうにニッと笑い、『・・・おぬし、さてはズボラ女子だな。最近ズボラ脱出の為頑張っているようだが、ズボラ臭はそんなに簡単には消えぬ。』と言った。彼女の背後にある受付カウンターの後ろの壁には『株式会社ズボライデンシャフト』とあった。

『ズボラ』にドイツ語で『情熱』を意味するLeidenschaft(ライデンシャフト)をくっつけた造語で、『ズボラな日々を送るために情熱を捧げる』、という意味を込めた社名らしい。そこはズボラに毎日を楽しむ為の商品を開発したり、本を出版したり、セミナーを開いたり動画を配信したりしている会社だった。

社内で行われたパーティーでは女性は皆個性的なファッションをしていて、ズボラ話で盛り上がった。社長の涼華(りょうか)さんは私のことを気に入ってくれて、『絶対にまた来てほしい。むしろ我が社で働いてほしい。』と別れを惜しんでくれた。

お酒も進んで盛り上がったこともあり時刻は23時を過ぎていた。コンビニでお泊りに必要なものを購入してからホテルにチェックインした。暁さんに散々お礼を言われ、明日は名古屋観光をしようと話をし、隣同士の部屋に入ろうとすると彼は『あ。』と何かを思い出したような一文字を発した。

「お前、裁縫道具なんて持ってないよな?フロントにあるかな。」

「それが意外に持ってるんですよ。女子力の塊みたいな友達に『持っときな。』ってもらったんです。使いますか?」

「・・・その、頼み事ばかりで悪いんだがコートのボタン、つけてもらえるか?さっきタクシーの中で取れて・・・裁縫苦手なんだ。」

「いいですよ。」

何でも出来そうなのに意外だ、微笑ましく思いながらそう言ってコートとボタンを受け取ろうとすると、暁さんは私に一歩近づいた。

「終わるまでお前の部屋で待たせてもらっていいか?」

「いいですよ。すぐ終わりますし。」

何気なくそう返した。まさかこの後あんなことになるなんて、この時は考えもしなかった。
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