受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
 レーヴ・グリペン、二十五歳。
 戦時はいち早く伝令を届け、平常時は郵便配達を任務としている早馬部隊に所属する彼女には、通り名がある。

 その名を聞けば、訓練学校や騎士学校に在籍している者や卒業生なら、ほぼ確実にレーヴ・グリペンの名を挙げるだろう。
 栗色の長い髪を一つに結い上げ、訓練学校で鍛えた体は他国の一般女性よりは引き締まっている。
 だが、本人もちょっとばかり──いや、だいぶ気にしている肉付きの良いお尻は、その通り名の由来の一因になっているのではないか、とレーヴは思っていた。

 【栗毛の牝馬】。
 そう呼ばれるようになった出来事は、今も伝説のように語られる。

 訓練学校時代、軍事パレードに遅刻しそうになった彼女は、それまで駑馬と呼ばれて誰も乗りたがらなかった馬を見事に操り、近衛騎士が青ざめるほどの速度で走り抜け、間に合わせたのだ、と。
 それは、無名の一訓練生でしかなかったレーヴに通り名がつくほどの衝撃を、人々に与える出来事だった。

 その時乗っていた駑馬が牡であったこと。そして、馬の扱いが巧みだったということをたたえて、『牡馬を手なずける栗色の髪を持つ女』という意味で、彼女は栗毛の牝馬と呼ばれている。
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