受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
 デュークは、人の姿をしていた時よりも情熱的なレーヴに、複雑な思いを抱いた。
 しかし、恋焦がれた彼女に触れられて、嫌なはずがない。デュークは訳がわからず戸惑いながらも、慎重に、おとなしくしていた。全てはレーヴのために、である。

 人の姿だったなら、彼女を抱きしめ返せたのに。
 残念に思いながら、デュークは首にしがみつくレーヴの頭に鼻面を押し付けた。

 これくらいのことは、許してもらいたかった。
 だって、もうすぐお別れなのだ。少しくらい餞別をもらったって、バチは当たらないだろう。唯一の心残りである唇へのキスは、もうできないのだから。

「……ふぅ」

 デュークの気持ちも状況も知らず、滑らかな毛に顔を押し付けて堪能したレーヴは、満足そうに息を吐きながら顔を上げた。
 そして改めて至近距離で見た馬の姿の彼はやっぱりすてきで、さらに人の姿をした彼に抱きつく自分を想像してしまい、今更ながらに恥ずかしさを覚える。
 レーヴは頬を染め、慌てて腕を解いて距離を取った。
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