受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
 レーヴが気づいたのは、ジョージにナイフを投擲された時に感じた恐怖の理由だった。
 か弱い女の子ならいざ知らず、レーヴは軍人である。殺気もナイフも、未経験ではない彼女が恐怖を感じたのは、なぜだったのか。

(ああ、私は……私は、デュークを喪うのが怖かった)

 気づいたところで、もう遅い。
 デュークの気持ちはもうレーヴの元にないのだから。

「どうしろって、いうのよ……」

 唇を噛み締めても、もう駄目だった。
 制御不能の感情は、レーヴの理性を裏切って涙を流す。

 伸ばした袖で乱暴に拭って、涙をなかったことにしたかった。
 けれど、こんな時でも優しいデュークがレーヴの袖を噛んで引っ張るから、それもできない。
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