嘘と愛
利用しているのですか?
「楓さん? どうして、ここに」
「貴方の様子がおかしいから、様子を見ていたの。帰り道、逆方向に行ったから追いかけてきたのよ」
「尾行したのですね? 」
聖司はちょっと怖い目で楓を見た。
「目を覚まして、あなたの想いは間違っているわ。無理矢理、想いを押しつけるのは愛じゃない」
「…無理矢理じゃないですよ。彼女も、本当は分かっているんです。僕の気持ちが。でも、あの男が邪魔をしているだけですから」
「そうじゃないでしょう? ちゃんと見て! 喜んでいる? 」
楓に言われて聖司は零を見た。
零は苦しそうに表情を歪めていた。
その表情に、聖司の手が緩んだ…。
「貴方がやっていることは、貴方が最も嫌いな人となじ事よ」
茫然となった聖司を見て、その隙に楓は零を自分の方へ引き寄せた。
引き寄せられた零は、ゆっくりと楓に視線を向けた。
楓に零を盗られると、聖司はいつもとは違う怒りに満ちた目を向けてきた。
その目が怖くて、零は楓の腕をギュッと掴んだ。
「心配しないで、もう大丈夫だから」
楓はそっと零を抱きしめた。
「あいつの、どこがいいんですか? 中途半端で警察官を辞めて。憎むべき、宗田ホールディングに入社しているなんて。僕には考えられない」
「貴方は勘違いしています」
「え? 」
「憎むべき事は人ではありません。憎むべき事は罪だけ。出来事と、人は別です」
そう言われると、聖司はそっと視線を落とした。
遠くから車のライトが近づいてきた。
車は零達の傍で止まった。