嘘と愛
利用しているのですか?

「楓さん? どうして、ここに」
「貴方の様子がおかしいから、様子を見ていたの。帰り道、逆方向に行ったから追いかけてきたのよ」
「尾行したのですね? 」

 聖司はちょっと怖い目で楓を見た。

「目を覚まして、あなたの想いは間違っているわ。無理矢理、想いを押しつけるのは愛じゃない」

「…無理矢理じゃないですよ。彼女も、本当は分かっているんです。僕の気持ちが。でも、あの男が邪魔をしているだけですから」

「そうじゃないでしょう? ちゃんと見て! 喜んでいる? 」

 楓に言われて聖司は零を見た。
 
 零は苦しそうに表情を歪めていた。
 
 その表情に、聖司の手が緩んだ…。

「貴方がやっていることは、貴方が最も嫌いな人となじ事よ」
 
 茫然となった聖司を見て、その隙に楓は零を自分の方へ引き寄せた。
 
 引き寄せられた零は、ゆっくりと楓に視線を向けた。


 楓に零を盗られると、聖司はいつもとは違う怒りに満ちた目を向けてきた。

 その目が怖くて、零は楓の腕をギュッと掴んだ。

「心配しないで、もう大丈夫だから」

 楓はそっと零を抱きしめた。

「あいつの、どこがいいんですか? 中途半端で警察官を辞めて。憎むべき、宗田ホールディングに入社しているなんて。僕には考えられない」

「貴方は勘違いしています」

「え? 」

「憎むべき事は人ではありません。憎むべき事は罪だけ。出来事と、人は別です」


 そう言われると、聖司はそっと視線を落とした。


 遠くから車のライトが近づいてきた。



 車は零達の傍で止まった。
< 117 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop