嘘と愛
 大学を卒業するまで支援は続き、零が警察官になると支援はなくなり。
 そこからはずっと、零は地味な服を着ていた。


 閉じていた目を開いて、零はもう一度服を見つめた。
 服を見つめていると…

 幸喜の優しい笑顔が見えてきて。
 服や鞄を選んでいる幸喜が、とても嬉しそうな顔をしている姿が見えてきた。

「まさか…私の為に買ってくれたの? 」

 服を通して視えてきた幸喜の姿に、零の目が潤んできた。

「…あの事件がなければ。…私…ここにいたのかな? …」

 ギュッと服を抱きしめると、なんとなく嬉しさが込みあがってきて。
 零は泣き出してしまった。



 コンコン。
 ノックの音にハッとして、零は涙を拭いた。

「零ちゃん、起きてる? 入ってもいいかな? 」

 幸喜の声に、戸惑った顔をした零だが服をしまって部屋のドアを開けた。

 泣いていた事を見られないように、視線を落としている零を見ると、幸喜は胸が痛んだ。


「ちょっといいかな? 」

 零は黙ったまま、幸喜を部屋に入れた。

 幸喜と零はベッドに腰かけて並んで座った。


 零は俯いたままだが、目がちょっと腫れている。
 そんな零を見ると、泣いていた事を幸喜は感じた。

「話したいことを、話せればと思ったんだ。明日は仕事早いのか? 」
「いえ…明日は休みです…」

「そっか。じゃあ、ゆっくりして。何も気兼ねしなくていいから」

 黙ったまま零は頷いた。
< 60 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop