嘘と愛
「ねぇ、名前を教えてくれる? 僕は、宗田幸喜。あのビルで働いているよ」
自社ビルを指して幸喜は言った。
「あの、宗田ホールディングですか? もしかして、経営者のお身内の方ですか? 」
「僕は社長の息子で、今は副社長なんだ」
「すごい方なんですね。私は、藤崎イリュージュです」
藤崎という苗字にちょっと引っかかった幸喜。
まさか…ディアナの身内?
そう思った幸喜だったが、違うだろうとその場は流してしまった。
「私、ただの法律事務所の事務員です。たいした人間ではありません」
「そんなことないよ。ねぇ、今日は時間ある? 」
「あ…えっと…。今から事務所に戻って、まだ残務が残っているんです」
「そっか、じゃあ…」
幸喜は名刺を取り出して裏に携帯番号を書き出した。
「これ、僕の名刺だけど。裏側に、携帯番号を書いたから、いつでもいいから連絡くれる? 」
女性ことイリュージュは名刺を受け取った。
「判りました。その時が来たら、連絡しますね」
「ああ、待っているよ」
その日はそのまま別れ、幸喜はイリュージュからの連絡を待っていた。
しかし1週間経過しても、イリュージュから連絡が来ることはなかった。
幸喜の連絡先だけ渡して、一方的だった。
イリュージュの連絡先も聞いておけばよかったかな? と、幸喜は思っていた。