嘘と愛
誘拐した本当の理由

「あんたはね、病院から誘拐してきたの」

 フフッと笑いを浮かべたディアナは、まるで魔女のように怖い笑みを浮かべているように見えた。
 狙った獲物は必ずしとめる、どんな手段を使っても逃がさない…。
 そんな恐ろしい目をしているディアナを見ると、椿はゾクっと恐怖を感じずにはいられなかった。

 鞄から煙草を取り出し、ライターで火をつけ吸い始めたディアナ。
 ディアナの口から吐き出される煙は、相手を捕まえるための縄のように見える…。

「まぁ、誘拐って言っても。あんたを産んだ親は、すぐに死んでしまったようよ。父親もいなくて、あんたは施設に送られるとこだったみたい。良かったわね、私が誘拐したおかげで、あんたはお金持ちの家に来れたのだから」
 
 不敵に笑いながらディアナは言った。

 椿は正直ショックを受けていた。
 確かに怪我をした時に、幸喜もディアナも輸血できないと言われ、自分は本当の子供ではないのではないかと不安に感じていた。
 感じていた不安が的中してしまうとは…。

 まだ中学生の椿には受け止めるには大きすぎる事実だった。

 いつか追い出されるのだろうか?
 そう思いビクビクしていた椿は、幸喜の顔色を常に伺っていた。
 ちょっとした幸喜の表情が冷たく感じたり、反応が思った通り出なかった時は、不安が強くなったり…気が休まる事がなかった。

 正直に幸喜に聞いてみようか…。
 そう思ったこともあったが、ディアナが話した事を聞いてしまうとそのまま追い出されてしまうのではないかと思うと怖くて聞けなかった。
 ずっと一人で隠してきて、不安を消すために幸喜のカードを黙って使い高額な買い物をしたり、学校の帰りに夜の街に出て男と遊んだりしていた。

 未成年で高額商品を買って、カード額を限度額まで使っても幸喜は怒る事をしなかった。
 問い詰める事もなく黙っていた。

 そんな幸喜を見て、どうせ本当の子供じゃないから怒らないし何も言わないのだろうと椿は思っていた。

 そのまま大学に進み、椿はますます夜遊びが激しくなり無断外泊もするようになったが、幸喜はそれでも何も言わなかった。
 
 とくに険悪の仲になるわけではないが、いつも椿は何も言わない幸喜に本当の子供じゃないから無関心なのだと思っていた。
 
 悪い連中との関係は深まるばかりで…。
 それ故に栞の偽証にも協力してもらえた。
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