初恋彼は甘い記憶を呼び起こす
「なにを話してたんですか?」

 上目遣いで坂巻さんの顔を覗き込み、佐野さんがかわいらしい声音で質問する。
 坂巻さんは圧倒されてのけぞりながら、「別になにも」と答えて苦笑いしていた。

「篠宮さん、坂巻さんをひとり占めしてずるいですよ!」

「そんなことしてないから、大げさに言わないで」

 佐野さんにあきれつつ、抗議すべき部分はきちんと言葉にして伝えた。
 黙っていると彼女の都合のいいように解釈されてしまうから。

「坂巻さん、篠宮さんは肉食系女子だから油断したら食われちゃいますよ? 仲良くするんなら私にしてください」

 人を蹴落とすようなアピールの仕方をしなくても、と佐野さんに対して盛大なため息が出た。
 今のはいくらなんでもひどすぎるだろう。かわいく言えばいいというものではない。

「肉食系女子なんてやめてよ。全然違うのに!」

「そうなんですか? でも恋愛経験豊富なんですよね? 篠宮さんのモテてる話を聞きたいです! 元カレの話とか」

 私の恋愛話をとりわけ聞きたいわけではないと思うけれど、佐野さんは坂巻さんの反応を横目でチラチラとうかがいつつ、私の返事を待っていた。
 彼女は装っているだけで、決して天然ではない。 今だって、坂巻さんの前で私に恥をかかせたいのだ。

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