初恋彼は甘い記憶を呼び起こす
「篠宮さんと肉食系って正反対な感じがして、俺は信じなかったけどね」

 坂巻さんが綺麗な顔でニコリと笑ってくれたことに、ホッとする自分がいた。
 彼は佐野さんが口にした間違った情報に翻弄されずにいてくれたのだ。

「その、片想いしてた彼を忘れられないの?」

 ずいっと前のめりになりながら、坂巻さんから本質をつく質問をされ、私は驚いてむせ返してしまった。
 話に食いつかれたのが意外だったのもあるし、図星をつかれたのもあって居心地が悪い。

「もう昔の話ですよ。今はその人がどうしているのか全然知らないですから」

 なんとか取り繕って返事をしたら、坂巻さんは優しい瞳で微笑んでくれた。

「良かった。今は強敵はいないんだね。俺、がんばろうかな」

 今のはどういう意味なのかと、隣にいる有希をうかがい見ると、テーブルに肘をつきながらニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 今日会社で有希から『坂巻さんは海咲に気がありそうだもんね』と言われた言葉が頭をよぎる。

 もし本当にそうだったら、私はどうするのだろう。
 付き合うことになるのかな、と未来の自分を想像してみたけれど、坂巻さんが私の彼氏だなんて夢みたいで、逆に臆する気持ちが出てきてしまう。


 この日の飲み会以降、坂巻さんからメッセージが頻繁に届くようになった。
 朝の挨拶などたわいもない内容が多いけれど、坂巻さんが自分で言っていたようにマメにいろいろと送ってきてくれるので、ほっこりとしてうれしい。

 坂巻さんとの距離が少しずつ縮まってきている気がする。
 焦らずにゆっくりと進むペースが、私にはきっと合っているのだ。

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