冷たい雨
プロローグ
 今日は朝からずっと雨が降っているせいか客足はなく、今日の店仕舞いはいつもより早くなりそうだな……。

 僕は元々の性格が無精で面倒臭がりな方で、この年齢になった今でも、独身で実家のすねかじりだ。実家の仕事を手伝ってはいるものの、今のところ家業を継ぐとか張り切って商売をする気はなく、でも何かをやっていないと体裁が悪いと考えていた時に、ふとこの仕事を思い付いた。
 この年齢で独身、自営業、それなら家業手伝いよりも自分で店を経営している方が聞こえはいいだろう。
 実家の親には今まで散々心配をかけているのだから、自立の意味でもちょうどいい。

 夜の時間帯の客商売と言えば、お酒を伴う。そう、僕は駅前の一角にある雑居ビルの二階でショットバーを経営している。
 実家が酒屋を営んでいるので、仕入れはそこからだ。売れなさそうなリキュールや期限の切れそうなお酒やジュース類は融通して格安で卸してくれるから、この仕事をしているとそれなりに助かる。
 実家としては賞味期限の切れそうな余剰在庫を減らす事が出来るし、事情を知った上でそれを格安で仕入れることの出来る文句を言わない僕と、お互いメリットがある。
 期限が切れた物は流石に店には出せないから、それらは自宅に持ち帰り、寝る前の睡眠導入剤の代わりに飲む事もあるが、大概は両親がご近所さんを自宅に呼んで、宅飲みで消費する。もちろんカクテルを作るのは僕だけど。

 ノンアルコールカクテルのオーダーもあるから、それなりに種類は作れるように材料は用意しなければならない。
 アルコールやジュース以外の材料調達に関しては、果物やおつまみ、軽食以外は実家から持ち込めばいいのだから、ドリンク類の品切れの心配はいらないのはありがたい事だ。
 軽食の調理も、大学在学中のバイト時代に身に着けたものだから、簡単な物しかメニューに出していない。しかもそれらはパスタ等日持ちする材料のものばかりだ。

 日中は酒屋の配達を手伝い、身を粉にして働いている様に見られているみたいだが、そんな事はない。
 抜け殻になってしまった自分の存在価値を見つける為に試行錯誤しているだけだ。
 実際ここで店を開いていても、今日みたいな日は客なんて誰もいない。立地場所は駅前と最高な条件であっても……。

 僕は店の窓越しに外の景色を眺めていた。
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