冷たい雨
 本堂に住職がやって来ると、四十九日の法要がしめやかに営まれた。
 読経を聞きながら、僕は遺骨の横に置かれた梓紗の遺影を見つめながら梓紗の事を考えていた。

 梓紗は今頃何をしてるんだろう。一人で淋しくないだろうか。無事に天国へと旅立てただろうか。何となくまだここに梓紗がいる様な気がして、僕の隣に座ってニコニコしているのではと錯覚してしまいそうになる。

 法要が終わり、梓紗の遺骨は菩提寺内にある瀬戸家の墓に無事納骨された。
 僕達は梓紗の家に呼ばれ、リビングに通された。
 梓紗のお母さんから梓紗の形見分けがあると言われたからだ。

 加藤さんには、梓紗が生前髪の長かった頃に愛用していたと言うバレッタとシュシュを、僕には、梓紗の写真が入っている写真立てと、生前愛用していた筆記用具を渡された。

「由良ちゃんには、梓紗がお気に入りのバレッタとシュシュ、これを良かったら時々使ってあげて欲しいの。梓紗も後遺症で髪の毛を短くしてから使う事もないしって、由良ちゃんに使って欲しいって言ってたから……。
 白石くんには、梓紗の写真を……。白石くんの事が大好きだったあの子の事を、時々でいいから思い出してあげて欲しいの。思い出だけではなくて、顔も良かったら思い出してやってね。それから、これを使って勉強を頑張って欲しいって……」

 梓紗の形見分けは、梓紗の遺志でもあった様だ。僕達は、それらを遠慮なく受け取った。

 梓紗の事は忘れない。
 これからもずっと、梓紗の事を想って生きていく。

 僕達は、梓紗からの最後の贈り物を受け取ると、瀬戸家を後にした。

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