冷たい雨
 相変わらず僕はクラスのみんなとは距離を置いたスタンスを取っているけれど、瀬戸さんはマイペースに僕をその輪の中に引き込もうと画策している。そして僕はそんな瀬戸さんの策略に嵌らない様にお互いが腹を探り合っている。このやり取りが入学後一ヶ月も続けば、嫌でも何だか徐々に癖になりつつあるのを感じるのは僕だけだろうか。



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 この頃には、僕も無理矢理クラス委員を押し付けられた事も手伝って、瀬戸さんとの一連のやり取りは、もはやクラスの中ではお約束と取られている様だ。塩対応な僕に、マイペースな瀬戸さん。いつの間にか遠巻きで見ていたクラスのみんなも、それを当たり前の事の様に受け入れていた。

 高校一年の一学期は、みんなとの親睦を深めるオリエンテーション的な行事がいくつかあり、その中でも目玉行事なのは一泊二日で行われる青少年交流の家での宿泊訓練がある。
 青少年交流の家とは、全国で十三か所にある青少年のための団体研修施設である。僕の住む県には偶然にも国立青少年交流の家があり、県内の学生達だけでなく県外からも団体の学生達の宿泊があると聞く。
 小学生も、六年の修学旅行の練習を兼ねた集団宿泊が五年生で経験するし、中学校に進学しても宿泊訓練があった記憶がある。
 まさか高校でも宿泊訓練があるとは思わなかったけれど、瀬戸さんのおかげなのか同じ班割りで一緒になった子達とも何となく打ち解けられていた。

 出席番号順での班割りだったから、本当なら瀬戸さんも同じ班になる筈だったけれど、クラス委員が二人一緒の班だと都合が悪いと先生側の理由で僕達の班は別々だった。オリエンテーションも別行動だったけれど、顔を合わせると相変わらず瀬戸さんは僕に絡んでくる、そして僕は塩対応。お約束の様なやり取りも、日常の一コマとなっていた。

 月日は流れて一学期の中間考査、期末考査も無事に終わり、僕と瀬戸さんは学年一位二位の座を独占していた。
 瀬戸さんはあれから学校で倒れたと言う話は耳にしていないので、僕も安心しつつも彼女の様子を気にしていた。
 あの日から学校を休むこともなく、元気に登校している。
 瀬戸さんは、いつもクラスの中心で笑っている、まるでひまわりの様な存在の子だけれど、あの日見せた儚げな表情が、僕の心を締め付ける。だからだろうか、瀬戸さんがいつも通りのうざ絡みをしてくるだけで何となく安心するのは……。何だかこんな気持ちは初めてだ。

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