エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
君を守るのは、義務ではなく幸せ

通りは街路樹の蝉の声で賑やかだ。
八時五分。
暑くならないうちに玄関前の掃除を済ませてしまおうと外に出た詩織は、眩しさに目を細める。

すでに蒸し暑い。
正午になる頃には、危険なほど気温が上がるのではないだろうか。

ごみを拾って掃き掃除をし、それから雑巾でドアの取っ手などを拭こうとしたら、内側から開けられた。
スーツ姿の赤沼が鞄を手に出てきた。
赤沼も外気の蒸し暑さに顔をしかめている。

「おはようございます。もうお出かけですか?」
「依頼人の都合でこの時間だ。早朝は無理だと断ってくれたらいいのに、矢城先生はなんでも承諾してしまう、お人よしだからな」

どうやら始業前の仕事を引き受けたのは矢城で、それをやらされるのは赤沼であることに文句があるらしい。
たぶん彼なら、面と向かって矢城にもそう言っているのだろう。
軽くいなされていそうだが。

「頑張ってください」と励ませば、「頑張るほどの仕事内容じゃない」とフンと鼻を鳴らされた。
ぶつぶつ言いながら赤沼は駅の方へと歩き出し、その姿は通勤客の雑踏に紛れて見えなくなった。

詩織が再び雑巾を構えたら、今度は美緒が出てきた。
レモンイエローのTシャツにデニムのショートパンツを穿き、帽子にリュックとお出かけスタイルである。

「美緒ちゃんおはよう。ラジオ体操……の時間は過ぎてるね。どこへ行くの?」
「萌ちゃんと水族館。萌ちゃんのお母さんが車で連れて行ってくれるんだ。八時半までにおいでって」

美緒は夏休み中で、レジャーに連れていってあげたいと詩織は考えていた。
けれども平日は仕事があり、土日となればどこも混み合うだろう。
水族館のような涼めるスポットは特に、魚を見ているのか、人間を鑑賞しに来ているのかわからなくなりそうで、どうしようかと迷っていたのだ。
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