【短編】桜咲く、恋歌にのせて
「どうした? 結依がそんな声出すなんて珍しいな」
キョトンとした目をして私を見つめるヒデに詰め寄る。
「秀吉っ」
「……あぁ。フフッ」
「信長とか家康とか秀吉って、教えてくれる約束よね?」
私の問い掛けに返事はなく、ヒデの指が私の髪をかきあげる。
首もとがあらわになると、フッと笑ってヒデが口を開いた。
「桜、ようやく咲いた」
……え?
そう言われて辺りを見回すけれど、どの桜の木も緑色の葉をつけていて、花一つ見つからない。
そんな私の様子を見てか、横で吹き出してきた。
「ちょっとヒデ! 桜なんて咲いてないじゃん!」
ヒデはかきあげたままの髪を優しく握り締め、体を近付けてそっと耳元で囁いた。
「咲かぬなら咲かせてみせよう、恋桜」