サヨナラ、セカイ。
浅く何度も啄ばんでは離れ。抱き締め合えない代わりに、絡め合った指と指を片時も離さなかった。三ツ谷さんが予定の時間を15分ほど過ぎて、姿を見せるまで。

「明日また来るね」

事情を話せば郁子さんは有休を許可してくれる人だから。

「ん。・・・ありがとう、待ってる」

優しく笑ったナオさんの手を離すのが名残惜しくてしょうがなかった。でもこれからはいつでも逢える、誰に(はばか)ることもなく。






「吉見が出会ったのが新宮さんで良かった」

帰りの車の中で三ツ谷さんが言った。

「あいつと一緒に生きてくれる決断をしてくれてありがとう」

永い友人としての立場で伝えてくれてるんだろう。硬さの抜けた話し方にじっと耳を傾ける。

「吉見とは一年足らずの付き合いだって聞いてたから、正直に半分は期待してなかった。新宮さんを見くびってました、すみません」

「・・・そう思われるのが普通です、きっと」

「そこまであいつに尽くせる理由を聞いても?」

三ツ谷さんは淡々と訊ねたけど真っ芯を射貫かれたような。わたしは言葉を探しながらおもむろに口を開いた。
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