サヨナラ、セカイ。
「他に生きる理由がないだけなので。・・・献身的でもなんでもないんです」

彼に理解してもらえるとも思わず、ありのままを。

「ナオさんは壊れてるわたしに生きてていい理由をくれた、セカイに色をくれた。愛してくれて必要としてくれた。ナオさんが私を要らないなら、わたしもわたしを要らないんです。ナオさんしか持ってないから、ナオさんが全てなんです」

(いら)えはない。でもどうしてか、口から流れ出るのを止める気もしなかった。

「本当はほっとしました、ナオさんが一人でどこにも行けない体になって。わたしを要らなくならないって思いました。ずっとわたしだけを愛してくれる、壊さないで大事にしてくれる。ナオさんはどんなに辛くても苦しくても一生わたしから離れられない。そんなセカイはどこにもないって思ってたのに・・・・・・」

フロントガラスの向こうを見晴るかす。
様変わりしていく景色の中。薄く雲を引いた空だけが不変に見えた。

三ツ谷さんは「・・・そうですか」とだけ短く。

信号待ち。彼が黙ってラジオのボリュームを少しだけ上げた。クリスマスの定番ソングが流れていた。間を置いて。

「形はどうでも二人が幸せなら・・・十分でしょう」

気遣いと他人事の中間くらいの温度で聞こえた。綺麗ごとを並べられるより誠実だなと思えた。




ほんの少しだけ。
セカイが鮮明に映る。

ミライまでは不透明。
でも。
明日が見える。
一週間先。
一ヶ月先も。

不思議。初めてそこに在ったみたいな。
真新しいカンジ。

ひどく穏やかな気持ちがした。ナオさんへのクリスマスプレゼントは何にしよう。ふと。浮き立つような、満たされてるようなこの上ない幸福感。・・・明日を思うと。




でもいつか。
“明日”が見えなくなったら。
いつでもサヨナラを言うの。

空っぽになってもっと自由になる。

コノセカイからいつでも消える。
あなたさえ置いて。



Fin




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