パントゥーフル ~スリッパの乱~
その夜、僕は久々に美樹を抱いた。
妻のぬくもりを直接肌で感じるのは、この上ない幸せだった。

「ねえ、美樹、セックスって更年期障害の特効薬らしいよ」
パジャマを着なおしながら僕が言う。
「え?そうなの?」
知らん。口から出まかせだ。
「うん、ほら、男性ホルモンを大量に浴びるから、その刺激で乱れてた女性ホルモンが整うんだってさ」
「へー、そうなんだ」
こういうところ、美樹は天然で単純だ。
「だからさ、今度から調子が悪いときは言ってくれれば、いつでも治療してあげる」
僕がニヤッと笑ってしまったのを見て、さすがに美樹も怪しいと気づいたらしい。
「な、何言ってんの、バカ!」

怒ったふりをする美樹を僕は後ろからムギュッと抱きしめた。
「今度の週末は映画を見に行こうか。そのあと、パントゥーフルで一番きれいなケーキをイートインしよう。美樹の化粧した顔、久しぶりに見たい」
うん、と頷くのを確認して、「それからさ」と言葉を続けた。
「子どもたちがいなくなって家が広くなったことだし、和室で一緒に寝たいな」

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