都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「うえっ、佐久間さん」


軟派な男が嫌いな心は露骨に嫌な反応を示す。


「うえって何?もっとかわいい反応してよ」


嫌がられてるのに佐久間は心に接近して、その綺麗な手元を眺める。
手入れされた心の指先と、ネイルもしていないかさついた私の手。
比べられるのが怖くて、机の下に手を隠した。


「前川さんネイル変えた?かわいい」

「ありがとうございます」

「えー、棒読み」


いつもの調子で女性社員を褒めてるだけなのに、なんでこんなモヤモヤするの?
嫌だ、この場から早く離れたい。


「それで、佐久間さんは私たちに何か御用でしょうか?」

「遠藤さんにコピーお願いしようと思って。これ終わったら広報に渡して」

「分かりました」


佐久間は手に持っていた書類を私の目の前に出す。
顔を上げると社内でよく見る愛想笑いの佐久間がいた。
……その作り笑顔、嫌い。




「佐久間さんってほんと調子いいよね」


佐久間がいなくなってから、心はヒソヒソ話しかけてきた。


「私にはご機嫌とりしてくるのに、仁奈にはただ一言コピーよろしくって。
仁奈のかわいさが分からないやつに機嫌取られたくないんだけど。ないわー、アイツ」

「……だよね」


心はそう言うけど、私としてありがたい。
佐久間と一緒にいたらボロが出そうだから、できるだけ関わらないでほしい。
ボロが出て職場の人に怪しまれたら、それこそ佐久間に嫌われてしまいそうで怖い。
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