都合のいい女になるはずが溺愛されてます
職場でのいざこざが落ち着いてあまりいじられなくなったこの頃。
佐久間が遊びに行きたいと言い出したので週末は遊園地でデートをしていた。

今回は1泊2日だからのんびりできる。
この前より人が少ないし最高、と思っていたら広場に人だかりができていた。


「わっ、プロポーズしてますよ」

「えぇ、まじか」


なんとプロポーズの場面に遭遇した。ほんとにプロポーズする人いるんだと興奮して話しかけたのに佐久間は心底嫌そうな顔。
え、なんでそんな表情するの?別にいいじゃん、幸せそうだし。


「仁奈ってああいうプロポーズ憧れる?」


人を避けながら佐久間は微妙な顔でカップルを眺めている。


「私は普通に話してる時に『結婚する?』くらいでいいです」

「それは雰囲気なさすぎでしょ。
てかさ、婚約指輪欲しい?」

「私は欲しいとは思わないです。結婚指輪の方が普段使いできるしそれで十分って感じ」

「やっぱりね、よかった」


よかったってどういうこと?私には余計な金がかからなくて安心したってこと?
やだな、さっきからモヤモヤする。

わずかなリアクションから疑ってしまうのは佐久間には前科があるから。
いろんな女の子を振り回してきて泣かせてきた前科が。
過去から生まれる不安は簡単に拭えない。
少し怖くなって、まるで崩れそうな崖の上に立たされている気分で「あっち行こう」と笑いかけた。
< 216 / 263 >

この作品をシェア

pagetop