ペルソナ



「胃に入れば同じだから大丈夫。あ、浅川君は何飲む?ア◯ヒスーパー――」





「浅川は飲めないからお茶。ったく、今日に限って仕事切り上げてきたのか……」






冷蔵庫の前には侑吾がいてその手にはビールが握られていて、一颯にも勧めてこようとした。
が、ホットプレートの番人をしている汐里が食いぎみで彼の言葉を遮り、文句を言う。
普段侑吾は汐里と同じく一人暮らしをしていて、多忙のため滅多に実家に帰らないが、今日に限って仕事を終えて帰ってきていた。





「餃子パーティーは皆でやるって決めるからなー。母さんと汐里は何飲む?」





「「ハイボール」」





「……めっちゃハモった」





キッチンで揚げ餃子を揚げている京家の母、琴子と汐里の声が被り、琴子の隣で生春巻を巻く宙斗が引いている。
何故餃子パーティーなのに、生春巻を巻いているのかと侑吾はあえて聞かない。
きっと母が食べたいからに決まっている。
京家のルールは琴子、その次が汐里だ。
逆らったらいけない。






「で、竜希は何包んでるんだ?……ワンタン?」






侑吾はキッチンの向かいにあるバーカウンターで、黙々と何かを包んでいる竜希の手元をビールを飲みながら覗き込む。
そして、固まった。
竜希が包んでいるのはワンタン。
餃子パーティーなのに、ワンタン。





「ワンタン、私が食べたかったの。揚げたやつ」






「おれはスープで食べたい」






そう声をあげたのは汐里と竜希。
この二人は食の好みがよく似ていて、餃子パーティーなのにワンタンを食べたいとほざいている。
自由過ぎる妹と下から二番目の弟に、侑吾は呆れる。
が、侑吾自身も自由過ぎる部類に入る。
何故ならば――。







「で、兄ちゃんが持ってるのは何?」






「これ?駅前のめっちゃ美味いシュウマイ」






餃子パーティーなのに、シュウマイをテイクアウトで買ってきていたのだ。
侑吾も大概京家の人間である。
そんなことを思うのは完全な部外者である一颯しかいない。
京兄弟は基本的に自由人だ。
母から始まり長男長女、三男四男も自由。
もしかしたら、母の食べたいものを何も言わずに包む次男が唯一の良心なのかもしれない。






< 95 / 122 >

この作品をシェア

pagetop