きみはカラフル




それからのわたし達は、いたって平和に、穏やかに、交際を楽しんでいた。

店のスタッフに二人の関係を知られた時は、どんな反応があるのか不安もあったが、ほとんどが好意的な感触だった。
例の女性スタッフは少し落ち込んだような仕草も見受けられたが、それも数週間ほどでもとに戻ったようだった。
聞くところによると、新たな出会いがあったらしい。
それを知って、思わずホッとするわたしがいた。


交際するにあたって、わたしは、自分の特異体質について打ち明けるか否かをずいぶん悩んだ。
これまでに付き合ってきた人にも、毎回迷っては言えずにいたのだ。
だが、直江さんに関しては、今までの人達と同じようにはいかないと感じていた。
年齢的にもお互いにそろそろ結婚を意識しているのは事実で、より深い関係になり、直江さんの部屋にわたしの私物が増えていって、仕事以外の時間のほとんどを二人で過ごすようになってくると、どちらからともなく、将来の話がはじまるのがお決まりになっていたのだから。


『マンションもいいけど、できるなら郊外に戸建てを買いたい』
『飼うなら犬。大型犬がいいかな』
『でも小型犬を二匹…っていうのも可愛いと思わない?』

『子供は授かりものだからどうなるか分からないけど、加恵(かえ)に似てる女の子がいいな』
『わたしは弘也さんに似てる男の子がいい』
『でも、加恵がいてくれたら、それだけでいい。毎日加恵に会えるんだから……』


会話の端々に見え隠れする二人の未来に、わたしは…おそらく弘也さんも、その先を疑っていなかった。
そんな頃、ふと、弘也さんに、わたしの名前の由来を尋ねられた。
弘也さんの部屋で、土曜の夜。
翌日曜はわたしも休みで、二人の重なった休日を前にひとときを楽しんでいた。

「そういえば、加恵の名前は誰が考えたの?お父さん?お母さん?それとも他の誰か?」

弘也さんがソファに座り、その脚に挟まれるかたちでわたしは床のラグの上に腰をおろしていて、まあ、いわゆる、いちゃいちゃしているときの話題としては、何気ないものだった。

「……母親って聞いてるけど」

「へえ。由来は?」

「さあ……家を出ていったのがわたしが八歳の時だったし、母親のことを話すのは悪い気がして、あまり詳しくは聞いてないから…」

「そっか。でもたぶん、”たくさんの恵みがありますように…”っていう願いが込められてたんじゃないかな」

弘也さんの()は、緑と茶が広くなる。
わたしは恋人の優しい人柄に惚れ直しつつ、記憶の奥に残っている母親のことを思い出しては、それに付き纏う苦さも蘇ってきていた。










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