きみはカラフル




「………それはどうかな。母親は、わたしのことを嫌ってたみたいだから………」

穏やかなひとときに、穏やかではない返事。
弘也さんは即座に反応した。

「どういうこと?」

ソファから滑るようにラグに体を落とし、わたしとの距離が一気に縮まる。
耳もとで聞こえた声には、いささかの怪訝が含まれていた。

わたしは、弘也さんの腕に囲われながら、もしかしたら、今がその機会(・・・・)なのかもしれないと予感が走った。


母がわたしを嫌ったのは、間違いなく、わたしの特異体質のせいだ。
幼心にも、母がわたしを気味悪がっているのは理解していたのだから。
母のあの忌々しいものでも見るような冷たい眼差しは、今も鮮明に記憶している。
そして母のことを思い出すと、決まって、怖がらせてしまったことに対する申し訳なさと、自分ではどうすることもできなかったのにという苦しさが、同時に込み上げてくるのだ。

だがもしかしたら、このまま何も話さず一緒に居続けた場合、弘也さんにも同じような恐怖心を与えてしまうかもしれない。
そんな不安に、気持ちが騒がしくなってくる。

この特異体質の話は、今まで誰にも教えたことはない。
だからそれを聞いた相手がどんな反応を示すのかは想像もできない。
もしかしたら、今のこの関係を壊すことになるのかもしれない……そんな危惧も皆無ではなかった。

けれど、例え最初は困惑したとしても、こんなに優しい弘也さんが、わたしの母みたいにわたしを拒絶をすることはないと思う。……ないと信じたい。


そうして、その願いに縋るようにして、わたしは、今までの人生で誰にも打ち明けたことがなかった自分自身についての秘密を、弘也さんに聞いてもらうことにしたのだった。











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