きみはカラフル
「弘也さん?」
四日目の夜、バルコニーから部屋に戻ってきた弘也さんに、思いきって訊いてみることにした。
「……ここに来てからよく電話してるけど、仕事?大丈夫?」
「え……そうかな?そんなに電話してる?」
とぼけるように尋ね返してくる弘也さんの色に目立った変化は生じていない。
けれど紫の面積は相変わらず大きくて、わたしはそれについても心当たりを問いかける。
「……あのね、実はここに来るちょっと前から、弘也さんの虹色の中で紫が大きくなっていってて、それが、ちょっと気になっちゃって……」
わたしの特異体質について打ち明けた日から、わたし達二人の間で、”よほどのことがない限り、見える色については口にしない” というのが何となくの決まりごとになっていたのだが、今回は ”よほどのこと” に分類してもいいと思ったのだ。
紫が疲労の類だと承知している弘也さんは、何か思い当たることがあったのだろう、「紫か……」と、ため息混じりに呟いた。
「疲れ、たまってるんじゃない?」
「……確かに、それはそうかもしれないな」
「仕事、大変なの?せっかくリフレッシュしに来てるんだから、わたしにも手伝えることがあったら言ってね」
仕事に関してはどうすることもできないけれど、それ以外でサポートできることは何でもしたい。
その想いからこぼれたセリフだったのだが、弘也さんが「ありがとう」と笑顔になり、その反動で紫も若干その幅を狭めてくれた。
こんな容易いことでも好きな人の疲れを減らすことができるのだと、わたしは、自信のような、誇らしい気持ちを覚えた。
そしてそれを立証してくれるかのように、弘也さんが言ったのだ。
「加恵は、元気で笑ってくれてたら、それだけで俺は幸せになれるよ」
その言葉に気をよくしたわたしは、「それならまかせて!」と胸を叩いた。
「弘也さんのためにも、元気に笑ってるから!」
本音で言えば、そんな容易いことで弘也さんの紫がなくなるわけないとは思った。
けれど、弘也さんがこう言ってるのを否定して他のことを尋ねるのも独善的に感じたのだ。
すると、わたしのこの選択が正解だったのか、またはわたしの笑顔が功を奏したのかは定かではないものの、翌日、いつの間にか弘也さんの紫は消えてなくなっていた。
わたしがその変化にホッとしたのは言うまでもない。
その後、弘也さんが電話をする数も減り、わたし達は残りの休日を思う存分楽しんだ。
昼だけでなく、夜の二人時間も濃厚になって、最後の夜なんかは、お互いに我を忘れるほどで………
とにかく、充実した季節外れの夏休みは、甘い思い出とともに幕を閉じたのだった。