きみはカラフル




休暇を終え、それぞれの仕事に戻っていったわたし達だったけれど、帰る家が同じなのだから当然夜は一緒に過ごすわけで、つまり、あの甘やかな雰囲気というかモードというか、そういう感じは続行中だった。

相変わらず弘也さんはわたしの送り迎えをしてくれて、写真も撮り続けて。
それから、事あるごとに、いや、事などなくても、日常茶飯事的に「好きだよ」と言ってくれた。
そして、「今の加恵は赤多めじゃない?」とか、「加恵の後ろに紫があるような気がするから、今日は早めに寝よう」など、()を織り交ぜた話題も、以前より少し増えてるような気がしていた。
これはおそらく、自分の()が見えないことを気にしてるわたしを癒す目的があるのだろう。
もちろん弘也さんにわたしの()が見えるはずはないので、口から出まかせなのだが、それでも嬉しかったし、弘也さんにそう言われると、わたしもなんだか、本当に自分の周りにそんな()が泳いでるような感覚もしてきたほどだった。

明るくて優しくて、心配性で甘やかな同棲生活は、幸せそのものに思えた。



そんな穏やかに過ぎていたある日のことだった。
土曜の朝、弘也さんの携帯に着信があった。
意図したわけではないが、着信音に反応したわたしはテーブルに乗せられていたスマホの画面をつい見てしまい、それがお姉さんからの電話だと分かった。
一緒に食事をとっていた弘也さんは「何だろ…」とひとり言をこぼしながら寝室に移動していった。
リビングダイニングではどうしても音があるので、通話する際は寝室に入るのがわたし達のお決まりパターンなのだ。
わたしは食器を片付けながらも、なるべく大きな音を立てないように注意を払った。
そして洗面所で歯を磨いていると、弘也さんが寝室から出てくる気配があった。

「……お姉さん、何かあったの?」

サッとうがいをして洗面所から廊下にひょこっと顔を出すと、弘也さんはさっきまでのルームウェア姿ではなく、トラウザーパンツにカットソー、腕にはジャケットを掛けていて、いかにも今から外出します、といった装いに変わっていた。









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