きみはカラフル
「出かけるの?」
今日はわたしは仕事だけど、弘也さんはお休みだ。
そういう日はわたしを店まで送ってくれることが常だったが、今日のシフトは午後からなので、まだ出かける時間でもない。
不思議に思っていると、弘也さんは申し訳なさそうに言った。
「ちょっと姉に用事を頼まれたんだ。だから今日は送れなくなった。ごめん」
弘也さんの胸元には、朝起きたときにはなかった紫が出てきていて、それは他の色達とは違って、少々角張っていた。
今日のそれは、疲労感というよりもストレスの反映みたいな印象がした。
「そんなの全然構わないよ。それより、お姉さん、どうかしたの?」
いつも丸みを帯びた色ばかりの弘也さんが、今回はそうでなくなっている……
これは何かあったのではと、とっさに不安が広がった。
結局一度もお会いすることが叶わないままでいる弘也さんのお姉さん。
もし何か緊急事態ならば、わたしだってシフトを交代してもらってでも駆けつけるつもりだ。
その想いは言外にも滲んでいたのだろう、弘也さんはクスッと笑い、
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。姉に何かあったわけじゃないから。ちょっとした家庭内の業務連絡というか……また帰ったら詳しく説明するよ」
ジャケットを洗面所のハンガーに掛けながら、わたしの唇にキスを落とした。
「……すぐ出るの?」
「準備ができ次第」
答えながらも、洗顔をはじめる弘也さん。
弘也さんの感じだと、お姉さんが体調を崩されたとか、実家のお父さんに何かあったとか、そういったトラブルではなさそうで、わたしはホッとしていた。
そして間もなく準備を整えた弘也さんが玄関を出ていくとき、小さかった紫がふわっと広がって大きな三角形になったので、わたしは急いで弘也さんの腕を引っ張った。
「弘也さん!」
「――っ?!」
いきなりの行為に弘也さんはびっくり顔をしたけれど、わたしは気にせずぎゅうっと彼の体に両腕をまわした。
「……弘也さん、大好き。気をつけてね。行ってらっしゃい」
わたしが元気に笑っていてくれたらそれだけで幸せだと言っていた弘也さん。
その言葉通り、もしわたしが弘也さんの幸せの発電所になれるのだとしたら、今の弘也さんの色を癒してあげたいと、強く強くそう願った。
「………ありがとう、加恵。俺も加恵が大好きだよ。加恵も気をつけて仕事に行くんだよ」
そう返してくれた弘也さんの紫は、少しだけ、丸く変わっているように見えたのだった。