きみはカラフル
《ちょっと心臓がね……。前から心臓はトラブルを起こしがちだったから、念の為に入院になったんだよ。それで、落ち着くまでもう少しかかりそうだから、帰りは何時になるか分からないんだ……》
沈んだ口調ではあるけれど、話し方は穏やかでいつもの弘也さんだ。
こういうとき、電話では色を確認できないのがもどかしい。
お姉さんも心配だし、看病する弘也さんも心配。
だって弘也さんには、お母様を見送ったという、悲しい経験もあるのだから……
そのときのことがフラッシュバックしてこないか、そんな心配もあったのだ。
「弘也さんは?大丈夫なの?弘也さん、朝は紫が強く出てたけど、今はもっとひどくなってるんじゃないかって、それがすごく心配」
思いきって色を持ち出したわたしに、弘也さんは《大丈夫だよ。ありがとう》と明るく言った。
《それより、加恵の方が心配だよ。俺は遅くなるから、ちゃんと戸締りして寝るんだよ?》
「大丈夫よ。子供じゃないんだから」
冗談っぽく心配性な一面を表に出してきた弘也さんに、わたしは笑って撥ね返す。
弘也さんは続けて、
《本当に?今の加恵には白色は見えないけどな》
妄想の色をからませてからかってきた。
白は、”誠実” のイメージだ。
「そんなことないよ。とにかく、弘也さんも気をつけてね。何か必要な物とかあったら、真夜中でもいいからすぐに連絡ちょうだいね?もしお姉さんの容態に変化があった時も、絶対に連絡してね?絶対だよ?」
お姉さんの看病をしてるのなら長話すべきでないと、わたしはとりあえず思いつく限りのことを伝えて、弘也さんも《わかった》と頷いて、通話は終了となったのだった。
そしてこれが、カウントダウンの開始だったこと、わたしは知る由もなかったのである。