きみはカラフル
午前中、寝室で休んでいると、お昼には体調はすっかり戻っていた。
ちょっと疲れがたまってたのかな…そんなことを思いながら、こういうとき、もしわたしの色が見えるなら、きっと紫なんだろうな…ちょっとそんな想像してしまったのは、間違いなく弘也さんの影響だ。
その弘也さんはリビングで仕事をすると言って、パソコンと向かい合っているようだった。
耳をすませば、かすかに聞こえてくるタイピングの音が彼の存在を教えてくれていて、ホッと癒される。
やがてその音が聞こえなくなると、トントンと寝室の扉がノックされた。
「加恵?どんな感じ?」
言いながら入ってきた弘也さんに、わたしは思わずガバッと起き上がってしまった。
その虹色が、異様なまでに膨らみ上がっていたからだ。
いつもは顔や首のあたりに浮遊してるそれは、今や弘也さんの全身を覆い尽くしてなおも広がっていくような規模になっていた。
赤、青、黄、茶、橙、緑、白……カラフルなのは相変わらずで、形は丸く、嫌な印象は受けない。
けれどその大きさに、わたしは目を見開いて凝視していた。
「……加恵?」
わたしの様子に気付いた弘也さんが、怪訝な声をあげる。
「どうした?俺の色に何か変わったとこでもあるの?」
わたしが弘也さんではなく弘也さんの色を見つめていると分かったのだろう、弘也さんは不思議そうに尋ねてくる。
わたしは、虹色というだけでも前代未聞だったのに、それがこんな風に変化したなんて、もう完全にお手上げ状態だ。
そしてそれを弘也さん本人に教えたところで、わたしにも弘也さんにもどうすることもできないのだから、ただ余計な心配をさせてしまうだけなのは目に見えている。
ここは何も言うべきじゃない、という結論に達するための時間は必要なかった。