きみはカラフル




「どうしたの?」

不思議そうに訊いたわたしに、弘也さんはそのハンドタオルを見せてくれる。
それは、雲と雲にかかる虹の絵柄が入ったタオルだったのだ。

「虹だ……。可愛いね」

わたしもあたたかい気持ちになり、笑顔になる。

「ちょっと行ってくる」

弘也さんはそう言い残して落とし主の女性に向かって駆け出した。
ベビーカーを押しているのでその歩みはゆったりとしていて、すぐに弘也さんは追いついた。
落とし物に気付いてなかった女性は、遠目にもびっくりした反応をしていたけれど、ハンドタオルを受け取るなり頭を大きく下げて礼を伝えた。
弘也さんはベビーカーの赤ちゃんにも手を振り、その瞬間、なぜだか急に弘也さんの()がまたひと際大きくなった。

気にしないようにしよう、そう決めたはずなのに、ここまでおかしなことになってくると、さすがに焦ってしまう。
どうしよう、弘也さんに話してみようか……いや、話したって、結局どうしたらいいのか誰にも分からないんだから。
そんな躊躇いが頭に浮かんできて考えにふけていると、こちらに小走りで戻ってくる弘也さんと目が合った。

けれどその刹那、弘也さんはまるで短距離走のスタートを切ったかのようにものすごい勢いで駆け出したのだ。


「―――?」

何事かと思う暇もなく、尋常じゃない強さでわたしが弘也さんに腕を引き寄せられるのと、けたたましい音と悲鳴が背後で聞こえたのは、ほとんど同時のことだった。






「弘也さんっっ…………!!」








何が起こったのか分からないまま、けれど、目の前でぐったり倒れている弘也さんの虹色(・・)が全部消えてなくなっていることに、わたしは、絶叫を越える叫び声をあげずにはいられなかった。











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