きみはカラフル




二人で暮らしていたマンションに帰ることもできず、実家に身を寄せ、ただひたすら呆然としていた。
会社からは約一カ月の特別休暇をもらった。
忌引き休暇にしては異例の長さだったが、目の前で、自分を庇っての死亡事故ということで、それを知った社長自らが特例を言い渡したらしい。
社員を思いやってくれる会社でよかった。
もしそうでなかったら、今のわたしの状態では、仕事を辞めなくてはならなかっただろうから。

ただ、彼と会えなくなってから二週間ほどが過ぎたけれど、いまだに何もする気が起こらないわたしは、一ヶ月強の特別休暇を終えても、復職できるかどうかは見えなかった。


父も有休を取ったり定時で帰ってきたリして、少しでも長くわたしと一緒に過ごすようにしてくれていた。
わたしがおかしなことをしないか、そんな心配もあったのだろう。


弘也さんがいなくなって、わたしは、ありとあらゆる欲を放棄していた。
食欲もなければ、睡眠欲も訪れず、ただただそこにいて、何かを考えることも、感情を動かすことも諦めていた。
だって、何をどうにかしたところで、弘也さんにもう一度会うことなんかできないのだから。
あのカラフルな虹色(・・)には、もう二度と出会えないのだから…………


感情が動かないのだから、当然、泣くこともできずにいた。
何リットルかの涙を流せば弘也さんに会える、そんなことになれば、何キロリットルでも流せたのだろうけれど。

でも、弘也さんは戻って来ない。
もう、ここにはいないのだ…………


食べず、眠らずにいると、当たり前だがどんどん体調は壊れていって、何も口にしてないのに吐き気に襲われたり、起き上がれないことも増えていった。

そしてとうとう、このままではもたないと判断した父によって、病院を受診することになったのだった。



その医師の診断は、思いもよらないものだった。













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